新型コロナウィルス感染症と闘う医療従事者へ医療物資を届けようと、元日本代表選手ら多くのラグビー関係者の賛同を得て行ってきた支援活動が、6月19日に一つの形で実を結んだ。

この日、感染拡大防止のために政府によって導入されていた他県への移動制限が解除。それを待っていたかのように、ラグビーエイドのクラウドファンディングにより確保した医療物資が、提供先の1つである、神奈川県の横浜未来ヘルスケアシステムの戸塚共生第一病院に届けられた。

「配達人」を務めたのは、元日本代表キャプテンの菊谷崇氏(ブリングアップ・ラグビーアカデミー)と、先日の現役引退後に東芝ラグビー部普及担当に就いた大野均氏だ。

二人はラグビーエイドの共同バイスキャプテンとして、この日、ドクタースーツセット(スーツ、ゴーグル、マスク、手袋、靴カバー)700とフェイスシールド2800枚分の目録を持参。横浜未来ヘルスケアシステムは女子ラグビーチームのYOKOHAMA TKMを運営しており、同病院で勤務するTKMキャプテンの濱辺梨帆選手(戸塚共立第2病院医事課)と永井彩乃選手(戸塚共立あさひクリニック医事課)に手渡した。永井選手は15人制日本代表でプレーする一人だ。

病院内で行われた贈呈式で、戸塚中央医科グループ副会長で横浜未来ヘルスケアシステムの横川秀男理事長は、「貴重な温かい心のこもったご支援、応援、多くの感染防護服をいただき、ありがとうございます。これ以上に勇気づけられることはありません」と挨拶。「まだ続くであろう新型コロナウィルス感染拡大に、立ち向かっていきたい」と述べた。

 また、挨拶に立った濱辺選手は、「今後も医療に貢献したい」と仕事への思いを新たにし、現在休止を余儀なくされているチーム活動についても「練習再開へ向けて頑張っていきたい」とコメント。元日本代表選手2人の訪問に力を得た様子だ。

 これが引退後初の社会活動となった大野氏は、「一つの形として支援を届けることができて光栄。皆さんが喜んでくれた顔を見ることができて、よかった。県またぎの活動がOKになった初日に、こういうことができて非常にうれしい」と話した。

 医療物資調達にも一役買った菊谷氏は、「日本ラグビー界みんなのパワーと思いを届ける役を、僕らが担っただけ。そういう思いがいろいろなところにつながっていければいい」と述べた。医療の現場に携わるラグビー関係者がいることに「頼もしかった」と話し、医師や職員から医療現場の話を聞き、現場の様子も垣間見て、「僕がこのコロナの時期に抱いていた病院の負のイメージを払拭できる機会になった」と話した。

2回の募金活動で1千万円を突破

ラグビーエイドで調達した医療物資は横浜ヘルスケアシステムのほか、慈恵医科大学病院には1回目分を含めてドクタースーツセット1250、マスク400枚が、済生会滋賀県病院にはスーツセット200、マスク100枚が届けられた。

クラウドファンディングによる募金活動は、今回が2回目で6月20日に終了。目標額100万円に対して5月21日からの約1か月で132%を達成したが、全国50を超えるラグビースクールが活動の賛同。5月1日から行った第1回では20日間で100万円の目標設定に対して、2日でこれをクリアすると期間終了までに344万円に。また、枠外でチューリッヒ保険から500万円を含め、600万円の直接寄付の申し出もあり、合計で1,076,200円が集まった。

2回の活動期間を通して、賛同者には日本代表キャップホルダーの選手総勢32人が名を連ねている。その中の一人、サンウルブズでもプレーした浅原拓真選手(日野レッドドルフィンズ)と、アマチュアプレーヤーでイラストレーターの尾中哲夫氏の二人は、自身が描いた絵画も提供した。

医師と子どもが握手する優しいタッチの尾中氏のイラストに対して、浅原選手の絵には、昨年のラグビーワールドカップで8強入りした日本代表、ジャパントップリーグの神戸製鋼、全国大会を制した早稲田大学と桐蔭学園高校などの昨年の覇者のユニフォームを採用した。

左端には、ラグビーエイドのきっかけを作った東京慈恵会医科大学付属病院の宿澤孝太医師の父、故広朗氏の姿もある。広朗氏は日本がワールドカップで初勝利を挙げた1991年大会で日本代表を率いた監督で、孝太氏は昨年のラグビーワールドカップでマッチ・デー・ドクターを務めた一人だ。

活動の広がりについて、大野氏は「自分と同じように、何かしら協力をしたいと思っても、どう援助したらいいのかわからない中で、ラグビーエイドが立ち上がって、そこに皆さんが反応してくれた。ラグビーをやってきた者として嬉しく思う」と語る。

また、第2波、第3波が懸念されていることを指摘して、大野氏は「こういう活動は絶対になくしてはいけないものだと思っている」と話し、菊谷氏も「物資だけでなく、いろいろな繋がりを持って今後も継続していく、一つの方向性が見つかればいい」と話した。

 活動の発起人でラグビースクールを対象としたコミュニティサイトを運営するラグビーキッズ代表の深尾敦ラグビーエイド・キャプテンは、「おかげさまで、野球やサッカーに次いで、なんとか形になりました」と安堵の様子。賛同する日本代表キャップ保持者が総キャップ772となったことに「強豪です」と笑った。

 今後は、支援金付きグッズの販売やイベント実施の形で活動を継続し、医療物資提供先もラグビー関係に限らず、要望に応じて届けたいという。深尾氏は「微力ではありますが、医療従事者の皆さんへのご支援を続けていきます」と語っている。

絵画©ラグビーエイド/浅原拓真