女子15人制の世界トップ18チームがWXV1からWXV3の3つのディヴィジョンに分かれて戦うWXVは、4年に一度開催されるワールドカップ以外で初の女子国際大会で、毎年開催される。記念すべき開幕戦は、10月13日に南アフリカのステレンボッシュで行われるWXV2の女子日本代表対女子イタリア代表戦。その1時間後にはドバイでWXV3がフィジー代表対コロンビア代表戦で幕を開け、トップディヴィジョンにあたるWXV1はニュージーランドで10月20日にイングランド代表とオーストラリア代表の試合でスタートする。

日本にとっては、これまで毎年恒例の大会はアジアラグビーチャンピオンシップのみ。それだけにWXVの発足が女子競技の強化と普及の糸口になると期待されている。

日本ラグビーフットボール協会で女子競技の普及と発展を担当する香川あかね理事は、 「女子15人制では日本は国際試合の機会が限られていた。毎年あるのはアジアラグビーチャンピオンシップでの2試合のみで、シックスネーションズ出場国と比べて圧倒的に定期的な国際試合が少なく、強化の上で大きなハンデがある」と指摘する。

しかし、今後については「WXVの3試合が加わることで、アジアチャンピオンシップの2試合と合わせて5試合が年間予定試合として確定する。しかも、アジア以外の自分たちと同レベルかそれ以上の国と対戦できる。これは強化のプランニング上、非常に大きい」と語り、2年後に開催されるラグビーワールドカップへ向けて、強化計画を立てやすくなると歓迎している。

それに、女子ラグビーのプロモーションとしてのロードマップも描きやすくなる」と香川氏。「WXVの前に国内で毎年ウォームマッチを計画できるようになると、国内の方に女子ラグビーを定期的に見てもらえる機会ができる。女子ラグビーの露出機会も増えて価値が上がり、観客数も増えて競技力も上がる。良い相乗効果が期待できる」と、新展開を思い描いている。

ここ数年の女子15人制日本代表のテストマッチの実施は、レスリー・マッケンジー女子日本代表ヘッドコーチが就任後、増加傾向にあるが、それでも海外での開催が多い。マッケンジー体制での国内でのお披露目は昨年夏。ワールドカップ・ニュージーランド大会前のテストマッチで南アフリカ代表、アイルランド代表と各2試合を行った。その後、WXVへ向けて今年9月にフィジー代表と2連戦を実施した。

海外強豪とアウェイでの対戦はチーム強化の点で得るものは大きいが、国内のファンや将来の女子代表入りを目指す選手たちにとっては物足りない状況でもあった。

だがそれも、WXV参戦を契機に国内での代表戦開催を確保できれば、将来の日本女子ラグビーを担う選手たちには代表選手のプレーを見て自分が目指すプレーのイメージを膨らますことができ、刺激を得る機会になる。

日本協会の女子選手登録数は2023年3月の時点で5,100人強。選手登録全体の約18%にあたる。年代別では未就学児から12歳未満の小学生年代が半数以上を占め、続いて高校生、中学生のユース年代が多いが、香川氏によれば、中学や大学への入学を機に競技をやめるケースも多く、後者は47%に上るという。

日本協会では競技離れを防いで数字を改善し、選手数と女子競技支援者の拡大につなげたいとして、今年4月には「女子ラグビー中長期戦略計画」を発表。2050年までに女子競技者数を1万人まで増やす目標を定め、競技力の面でも、プール3戦全敗に終わった昨年のワールドカップから2025年大会で8強入り、2050年に世界トップ3入りを目標にしている。

戦略計画推進室の担当部長としてこの「中長期計画」の作成にあたった香川氏は、「これまでは小中高校生が女子代表の試合を(国内で)見る機会がなかなかなかった。若手がトップの試合を見る機会ができることは、日本の女子ラグビーにとっても大きい」と語る。WXVが新たな局面をもたらすと期待している。

 

レベルアップとRWCへ

今回、日本はWXV2でアメリカ代表、ホスト国の南アフリカ代表とともにプールAに入り、クロスプール方式での実施でプールBの3チームと対戦。13日のイタリア代表との開幕戦に続いて21日にサモア代表、27日にスコットランド代表と戦う。

初年度はWXV2とWXV1との入れ替えはないが、WXV2の全6チームで最下位になるとWXV3のトップと初年度から入れ替えが実施される。

女子日本代表で37キャッを保持し、2017年と昨年のワールドカップを経験している齊藤聖菜選手は、「女子はワールドカップ以外にそんなに大きな大会はない。ジャパンはシックスネーションズもないので、WXVは大会に出る貴重な機会。強豪と戦うが、自分たちが準備してきたことをしっかり出してどういうラグビーが通じるのか通じないのか。チームも若いのでそこで経験できたらいい」と語る。

「次のワールドカップまでに、できれば上位のティア1の国と対戦できるようになればベスト」と齊藤選手は述べて、WXV1への昇格でレベルアップを目指している。

昨年のワールドカップで経験不足を痛感したというサクラフィフティーンSO大塚朱紗選手も、「WXVで経験値を上げられる。それをワールドカップに持っていけるようにしたい」と意気込んでいる。

また、女子日本代表キャプテンを務める長田いろは選手は、「私たちの試合経験が少ないことは(昨年の)ワールドカップ後のレビューでも出ていた。今大会が格上のチームなどと対戦する機会になることはうれしい。チームにとっても女子ラグビーにとっても成長につながる大会になると思う」と話している。

マッケンジー女子日本代表ヘッドコーチは言う。

「この大会はとてもユニークで、普段は戦わないような相手と普段とは違う、ワールドカップのプール戦に近い方式で戦えるので、大会を戦いながら、ワールドカップへ良い実践の機会として戦える。長期的には昇降格を念頭に世界トップで戦えるようにしたい。

「ただ今回は、我々のチームには若くてフレッシュな選手が多く、今大会で新しい選手やまだキャップ数の少ない選手に出場機会を与えたい。そして、自分たちの戦うモデルをつくり、そのモデルを日本国内のクラブチームに浸透させて、日本の女子選手が世界の舞台でどういうことできるかを示したい。それはとても重要なことだと捉えている」

WXVが日本女子ラグビーの未来への突破口となるか。新たな挑戦が始まる。