東京パラリンピックは、先日の東京オリンピックと同様に、新型コロナウィルス感染症の世界的流行を受けて2020年の開催予定が1年延期されたが、厳しい感染対策を導入して8月24日から9月5日まで実施される。

 その中で車いすラグビーは国立代々木競技場で25日にスタートする。出場8か国が4か国ずつ2グループに分かれて予選リーグを戦い、各グループ上位2か国が28日の準決勝に進出。メダルを懸けた3位決定戦と決勝は、いずれも29日に行われる。

 前回2016年リオデジャネイロ大会で銅メダルを獲得した日本は、25日のグループA初戦でフランス、26日の第2戦でデンマーク、28日の第3戦でパラリンピック2連覇中のオーストラリアと対戦する。一方のグループBでは、2016年大会の銀メダリストのアメリカ、イギリス、カナダ、ニュージーランドが競う。

 「本当に開催されるのか分からなかったが、やっと自分たちの舞台が来る」と、車いすラグビー日本代表でキャプテンを務める池透暢選手は開催を歓迎。延期された1年も「2020年の自分を超える」とプラス思考で臨んできた。大会を前にして「いい状態にある」とこれまでの準備に手ごたえを覚えている。

 「僕らが素晴らしいプレーを見せると信じて応援してくれている方々がいる。そこで力を発揮することを楽しみに、それを原動力にやってきた。プラスに働くことを考えながら進んできた」と池選手は言う。

 2018年世界選手権で優勝した日本は、自国で戦う今大会では他国からマークされる存在だ。池選手は、海外の屈強な強豪選手との対戦を想定して、当たり負けしない体づくりでベストな体重を探り、体幹を鍛え、得意のパスだけでなくランにも磨きをかけてきたと明かす。その成果はフィジカル面での数字に表れ、ダッシュ力や持久走、パスの距離など7つのフィジカルチェックで「5~6項目はタイか自己最高で、上がっている」という。

 12人構成のチームには、パラリンピック初出場の選手が女子の倉橋香衣選手を含めて5人。一方でパラリンピック最多経験者は5大会出場の島川慎一選手で、3大会出場が池崎大輔選手と若山英史選手の二人だ。

 池選手は、「ケビン(・オアーヘッドコーチ)の教えてきたラグビーをしっかり守る選手が増えて、崩れにくい。入る選手によって変わることができる。お互いに信頼し合える12人が集まった」と語り、チームメイトに全幅の信頼を寄せる。

2016リオ大会からの成長

 2017年から日本代表で指揮を執るオアーヘッドコーチも、チームと選手の成長を認識。就任1年半で2018年の世界選手権優勝など、結果も残してきた。

アメリカ出身の指揮官は、「個々の選手が成長して、組織的にプレーできるようになった」と日本代表選手の進歩に言及。ピリオド最後の時間帯の使い方やゲームコントロールなどが改善されたと話す。

 カナダ代表やアメリカ代表も率いたオアーヘッドコーチは、「日本は経験のある選手でも指導しやすい。良くなりたい、勝ちたいという気持ちがチームにあって、自分たちを信じて戦うことが浸透している。そこが、個人に頼りがちな他国とは違う部分で、勝つために必要な要素だ」と指摘。自身も今ではチームのピースの一つとなっていることに満足を覚えていると言った。

 2016年リオ大会の3位決定戦でカナダの監督として日本と対戦したオアーヘッドコーチは、当時「日本は金メダルを獲れる可能性がある」と感じていたと振り返り、そこから現在では「選手たちも強くなり、戦術も浸透している。この2年間は国際試合をしていないが、チームには経験も選手層の厚みもある」と語り、東京大会でのメダル獲得には楽観的になっている様子だ。

 今大会で対戦するフランス、デンマーク、オーストラリアについては「3チームとも似ている」と分析。中でも過去2大会連続で金メダルを獲得し、2018年世界選手権決勝でも日本と対戦したオーストラリアは、金メダル獲得へ向けて日本の最大のライバルと見られている。

 「勝ち進めば2018年世界選手権と同様に、決勝トーナメントで再びオーストラリアと対戦することになる。予選リーグでの彼らの戦いを見て、それを決勝トーナメントで反映させたい。そこでしっかり勝つことが大事だ」とオアーヘッドコーチは言う。

リオ大会出場の乗松選手、「準備が大事」

 池キャプテンと同じく、2016年のリオデジャネイロに続いて2大会連続での出場となる乗松聖矢選手は、初戦のフランス戦が大事になると話す。

 フランスとは2016年大会の予選リーグでも対戦し、日本が57-52で勝利。最後に顔を合わせたのは2019年10月のワールドチャレンジでの予選リーグで、そこでも日本が51-42で勝ちを収めた。

しかし、乗松選手は警戒を崩さない。2020年年明けからのコロナ禍で、対戦相手の最新情報の入手は難しくなった。

乗松選手は、「フランスがどのくらい力を付けたのか分からない中で戦う。試合の中で適応していく必要がある。初戦はどの大会でも体も固いし、緊張がある。(試合の状況をいろいろと)想定して準備をするしかない」と話す。

 リオデジャネイロ大会の準決勝で日本はオーストラリアに57-63と敗れて金メダルへの道が閉ざされた。その悔しさを胸に、乗松選手は東京大会での雪辱を期して、代表合宿以外では熊本で連日1人での練習が続く中、黙々と体感強化に努め、チームとしてはミリ単位でのポジショニングなどプレー精度の向上に努めてきたと明かす。

「コロナ禍も含めて、リオから5年という時間が経った。この舞台で金メダルを獲るための期間だったと思う」と乗松選手。

2016年大会以降の日本代表の変化については、乗松選手は「ケビンヘッドコーチになってチームが目指すラグビーと方向性が固まって、強くなっている。若手が増えたがチーム力は落ちていない。レベルは上がっていて、12人のうち誰が出ても戦える。個人の能力を持った選手が集まった」と手ごたえを口にしている。

感謝とリスペクトとともに全力で

 本番を目前にして、池キャプテンは「この2年間、世界中で国際大会ができない中で集まれるのは幸せなこと。喜びと相手へのリスペクトの気持ちを持ちながら、最高のものを出して戦いたい。そうすれば(メダルの)色は関係ないと思えるぐらい、素晴らしいものができると思う」と語る。

 感染拡大の影響で無観客での開催となったが、日本代表キャプテンは先日の東京オリンピックの対応を見て「覚悟していた」と言い、メンタルもしっかり仕上げてきた。無観客でもテレビの向こうで皆さんが応援していると信じて、全力で戦い抜く」と動じる様子はない。

 代表チームには長年帯同しているメカニック(整備)担当の三山慧氏もいて、大会へ向けて選手たちの車椅子の仕様準備も万全だ。池選手が「車椅子のお医者さん」と呼ぶ、頼れる存在だ。

自国開催のパラリンピックで、初めて車いすラグビーを観る人々には、競技を楽しんでほしいと日本代表キャプテンは言う。

車いすラグビーでは1チーム12人の中からコートに立てるのは4人。障害レベルに応じて選手は0.5~3.0の持ち点(障害が大きいほど数字が小さい)が与えられており、4人の合計が8を超えないように編成するが、女子選手は1人につき0.5ポイントマイナス扱いとなる。この組合わせの中で、各国が戦術によってさまざまな編成を組み、戦いに臨む。

池選手は、「車椅子ラグビーで一番目につくのは激しいタックル。衝撃音もすごいし、時には火花も散るほどだが、男女混合の競技なので女子選手もいるし、障害の軽い人から重い人まで、いろんな選手が入り混じって戦う」と見どころを紹介する。

「障害の重い選手たちも屈強な外国人選手に臆することなく全力でタックルに行って、仲間を守ったり仲間の道を作ったり、全員が協力しあって1つのトライを取りに行く。そこを見てもらえたら」と話し、子どもたちにも「ありのままを感じてほしい」と語っている。

車いすラグビー日本代表の戦いが始まる。