4月2日、クライストチャーチのオレンジセオリースタジアムで勝利を祝うハイランダーズの選手の輪の中に、チームメイトと肩を叩きあって談笑する姫野選手の姿があった。

今季、トヨタ自動車ヴェルブリッツからハイランダーズに期限付き加入している愛知県出身の26歳は、スーパーラグビー・アオテアロア第6節となった2日のアウェイでのクルセイダーズ戦にNO8として初先発。チームは33-12の勝利を収めた。

大会連覇でスーパーラグビーからの5連覇を目指しているクルセイダーズに、過去最多の21点差をつけて初黒星を献上。地元紙も「ハイランダーズの夜」と称賛した試合だった。

その試合に、2019年ラグビーワールドカップで日本代表の主力の一人として日本初のベスト8入りに貢献した姫野選手は、エネルギッシュなプレーを披露。守備で相手を止め、ブレイクダウンに絡んで相手のペナルティを誘うなど、後半13分まで戦った。

一週間前のハリケーンズ戦では途中出場でハイランダーズとしてのデビュー。同僚で元ニュージーランド代表のリアム・スクワイア選手の負傷もあって、デビュー戦の約31分に続いてクルセイダーズ戦では約53分間プレー。新天地で順調に歩みを進めているようだ。

 クルセイダーズ戦後にオンラインで取材に応じた姫野選手は、「今季初先発で、自分自身のプレーにはそんなに納得していないが、チームが勝てたので、その満足感はある。王者にアウェイで勝つというのはなかなか、ない。優勝争いに食ってかかる意思表示になる」と、チームの勝利を喜びながらも、自身については控えめの評価だった。

 「クルセイダーズとはすごくタフなゲームになると思って、自分のプレーにフォーカスしてプレーしようと臨んだ。まだまだ、試合の中での感覚をもっと研ぎ澄ましていかないといけない」と振り返った。

 姫野選手の公式戦での先発は、昨季ジャパントップリーグの2月22日に行われたクボタスピアーズ戦以来。その試合で姫野選手はキャプテンとして7番でフル出場して、チームの勝利に貢献したが、新型コロナウィルス感染拡大を受けてリーグはその後、打ち切りとなった。

姫野選手はクルセイダーズ戦の先発について、「スタートで出るのが久しぶりだったので、気持ちの作り方が久しぶりで、高ぶりや不安に駆られるところもあった」と難しさを覚えたことも明かした。

隔離期間中にはイメトレ

今回の海外挑戦はコロナ禍での渡航となり、姫野選手は2月に入って出発。ニュージーランド到着後は2週間の隔離期間を経てチームに合流した。隔離期間中には、1日のうちで限られた時間だけ駐車場で軽く体を動かすだけという慣れない生活だったが、その間にも部屋ではトップリーグやプレシーズンの試合映像を見てイメージトレーニングを重ねていたという。

制約の多い中での活動を経て、試合への気持ちは一層強くなっていたようで、3月26日のデビュー戦で姫野選手は、「アップの時から、人前で走るのがこんなにおもしろいのかというくらい、ニヤニヤしていた」と吐露。後半9分からの出場でNO8に入った。

「チームの流れが悪かったので、ボールキャリーやブレイクダウンなどでしっかり仕事をして流れを変えなくてはならない」と意識。自身をベンチから送り出す、日本代表のアタックコーチとして2019年日本大会での日本の躍進を支えた、トニー・ブラウンヘッドコーチの意図をくみ取ってプレーするように努めたという。

 残念ながら初試合のハリケーンズ戦は19-30の黒星に終わったが、その試合を次のクルセイダーズ戦につなげて先発を獲得。そして、今週末4月10日にホームで行う第7節チーフス戦でもNO8として先発することが発表されている。先週のアウェイ戦での勝利で3位に順位を上げたハイランダーズは、チーフス戦の勝利で今季初の連勝を目指している。

 ハイランダーズの本拠ダニーデンについて、姫野選手は「自然がたくさんあって、時間の流れがゆっくりしている」と描写。散策やコーヒーブレイクなどで、練習以外の時間を楽しんでいるという。

 チームメイトの中でも、2019年日本大会にニュージーランド代表で出場したシャノン・フリゼル選手とは親しくしているそうだが、同じバックローの選手として「負けたくない。彼よりも良いプレーをすることを意識している」と姫野選手は言う。

一方、オールブラックスSHアーロン・スミス選手には、スクラムハーフ目線でのアドバイスを受けるそうで、「日本にはないので新鮮」と話す。

 「スーパーラグビー挑戦は日本人としての自分の力の証明」と語る姫野選手。大学選手権優勝を手土産に2017年に加入したトヨタで1年目からキャプテンを務め、主力としてプレー。日本代表でも2019年ワールドカップで8強入りの立役者の一人となったが、今回の挑戦でこれまでとは異なるレベルでの新たな刺激を得て、選手としての成長を期している。

「僕は自分が持っているものを出すだけ。日本人もいいと思ってもらえれば、将来、ほかの日本人選手が(海外で)活躍しているかもしれない。そういう未来のために今、僕はこっちでがんばっている」と、日本代表17キャップを保持するバックローは言う。

 今年6月にはブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦など、ワールドカップ以来となる日本代表の活動も始まる予定だ。姫野選手もハイランダーズでの挑戦を得て、新たな一面を見せる機会になりそうだ。