「3歳でラグビーを始めて32年間、全力で走り抜けてきた。私には1シーズンしか、戦う気力体力ともに残っていない」

 年明け1月16日に始まるジャパントップリーグ2021シーズンを最後に、現役を退くことを明らかにしている五郎丸選手は、12月16日の会見でそう語り、自身の気力の衰えに言及。引退することが「自分にとっても周りにとってもベストと考えた」と語った。

 そして、35歳での引退をヤマハに加入した当時から決めていたと明かした。

「22歳でヤマハ発動機とプロ契約したその瞬間から、35歳までを第一線で戦い抜くことを決意していた。13年間その気持ちは変わらなかった。自分のパフォーマンスを出せるのは35までという考えだった」と説明した。

 シーズン前の引退表明についても、今シーズンが新型コロナウィルス感染拡大を受けて第6節で打ち切りとなったことを踏まえて、自らのラストシーズンも中断で終わる可能性も考慮してのことだと話す。

「2015年ラグビーワールドカップ後から本当に多くの方々に応援していただき、支えていただいた。そういう方々に対して、もしかしたら中断してしまうかもしれないシーズンを前に、しっかりとした形であいさつさせていただき、自分のラストシーズンを迎えることが私の考える礼儀であると考えた」と語った。

 福岡出身の34歳は早稲田大学卒業後の2008年にヤマハ発動機入り。フルバックとしてトップリーグで活躍し、2011-2012年と翌2012-2013年には2季連続でリーグ得点王とベストキッカー賞を受賞。2015-2016シーズンにも得点王を獲得した。2016年にフランスのトゥーロンでのシーズンを経て、2017年に再びヤマハに加入した。

 日本代表には2005年4月のウルグアイ戦で初キャップを獲得したが、代表で頻繁にプレーするようになったのは、2012年にエディ・ジョーンズ現イングランド代表監督が指揮官に就任してからで、前日本代表ヘッドコーチを「自分の存在を大きく変えてくれた一人」と語る。

2015年イングランド大会後の「違和感」と使命

その指揮官の下で臨んだ2015年ラグビーワールドカップでは、初戦の南アフリカ代表戦で1トライ、2コンバージョン、5PGで24得点を叩き出し、日本代表の歴史的勝利に貢献。大会4試合で58得点をマークし、イングランド大会のベストフィフティーンに選出された。

その活躍で、五郎丸選手がプレースキックの時に見せる、胸の前で手を合わせる特有のポーズが注目を集め、大会後は一躍時の人となった。

当時について五郎丸選手は、「私一人にフォーカスされることに非常に違和感があったが、ラグビーという競技が日本に広がってない以上、私がラグビーの魅力を広めていくことが自分の使命と感じて、ここまでやってきた」と振り返り、「あのポーズから入って、ラグビーを好きになった、また違う選手を好きになった。そういう方が一人でも多くいれば、私がラグビーを続けてきた意味があるのかと思う」話した。

エディ・ジョーンズと日本の「宿命」

近年、ラグビーを始める子どもが増えていることを喜んでいる。

「ラグビー日本代表のジャージを着たいという子どもたちが多く増えていることは嬉しい。2015年ワールドカップ前には少なかった。そういう環境を変えたいと、エディ・ジャパンでの過酷な練習に4年間耐え抜いて、ラグビーを憧れの舞台に上げることができたことは嬉しく思っている。」

2023年ラグビーワールドカップでは、そのジョーンズヘッドコーチが率いるイングランドと日本代表は同組になった。

「なにかの縁、宿命を感じる」と五郎丸選手。「ラグビーが生まれたイングランドという国に勝利することで、日本ラグビー、スポーツの価値が高まると思う。そこをターゲットとして後輩たちには頑張ってほしい」と語る。

また、今後のラグビー人気の定着には、「まずは日本代表が強い成績を残し続けることが第一条件。その中でラグビーを好きになって、ラグビー選手になりたいという子どもたちが増えて、ラグビーの魅力を実際に感じてもらうことが一番」と話した。

ラストシーズンでタイトル獲得へ

 一方、引退後については、「2つのことを同時に考えられるような起用な人間ではない。白紙」と語り、最後のシーズンを終えてから考えると話すにとどめた。

 ラストシーズンへもプロとしての姿勢を貫く。

 「下の世代に残すという思いは全くない。同じフィールドで生きている人間として上も下もない。そんな彼らとまずはレギュラーを争うことが、プロとしてやるべきこと」と話す。

ヤマハは2014年に日本選手権優勝を果たしているが、トップリーグ優勝はまだない。五郎丸選手のラストシーズン、タイトル獲得は大きな目標となりそうだ。

五郎丸選手は、「トップリーグはまだ獲れていない。このタイトルを獲ることで、このチームが1つも2つもステップアップできる。まずはそこにしっかり集中して、がんばっていきたい」と語った。

 ヤマハ発動機は1月16日のトップリーグ初戦で神戸製鋼と対戦する。