ラグビーと名の付く競技は一体いくつあるだろうか。一般的に知られている15人制や7人制をはじめ、同じユニオンというカテゴリーには10人制もある。若年層など競技の導入として採用されることが多いタグラグビーは、国内の小学校では体育の授業にも組み込まれており、最近耳にする機会が増えているかもしれない。

このほか、13人で行うラグビーリーグ、タッチラグビーやビーチラグビーもある。障碍者スポーツでも、近年日本が国際舞台で頭角を現してきた車いす(ウィルチェア)ラグビーのほかに、デフラグビーやブラインドラグビーもある。

だが、これらのすべてが多くの人々に知られているというわけではない。

 「みんな同じラグビーというスポーツなのに、横の連携もないままに別々に活動していて、もったいない。」

15人制日本代表でキャプテンも務めた廣瀬俊朗氏は、以前から抱いていた、そんな思いに動かされるように、新たな組織を作って動き始めた。それがOne Rugby(ワンラグビー)だ。

 「ラグビーをもっと広めたい」と、廣瀬氏は今年2月に立ち上げたNPO法人設立の狙いを語る。ここで言うラグビーはあらゆる種類のラグビーという意味だ。

 男子15人制ラグビーは、昨年のラグビーワールドカップ日本大会で日本代表が8強入りを達成する活躍を見せ、各国代表チームが各地で熱戦を繰り広げた。日本では「にわかファン」という新たな言葉が生まれるなど、社会的にも大きな盛り上がりを見せ、一般の人々のラグビーに対する認識は大会の前後で大きく変わった。

 だが、男子15人制以外の事情は異なる。

来年7月の東京オリンピックでメダル獲得を目指す7人制ラグビーは、男子セブンズ日本代表がリオデジャネイロ・オリンピックで4位に入る健闘を見せ、来年8月の東京パラリンピックに出場する車いすラグビーは前回2016年大会で銅メダルを獲得したが、まだ認知度は高くない。それは、来年9月にニュージーランドで開催されるワールドカップへの出場を目指している女子15人制日本表も、然りだ。

「ほかのラグビーにも頑張っている人がいる。もっと、いろんな人の目に届いてほしい」と廣瀬氏は言う。

「ダイバーシティや個人の生き方というものは、これからどんどん当たり前になっていく。そこで、目の見えない人や車いすの人も人生を楽しめるような世界観を作れたらいい。One Rugbyという団体を通して、そういう世界観を広めることができればという思いがある」と説く。

多様性や個性の受け入れが広く問われるようになってきた昨今、ラグビーというスポーツでもそれぞれの分野の違いを楽しみ、理解と支援の輪を広げたいというのだ。それを、男子15人制が注目されるようになった現在、その機運を活かして、人々の興味を15人制以外のラグビーにも向けようというのだ。

「15人制のファンになってくれた人は、きっと違うラグビーも応援してくれるんじゃないか」と、廣瀬氏はラグビー愛好家の懐の広さを期待する。

 そのツールの一つとして、One Rugbyでは各種ラグビー競技の主要大会などを網羅した「統一カレンダー」の作成を目指している。それを見れば、試合やイベントの予定が一目瞭然に把握できるというもの。ラグビーファンが各種競技へ足を運ぶ手助けになればと考えている。

また、将来的には海外へラグビーの普及活動で出かけた折に、他のラグビー競技の紹介や情報の提供などができることも視野に入れているという。

ラグビーで培われた思い

廣瀬氏は長年、男子ラグビーと女子の盛り上がりの違いや、旧友が関わっている車いすラグビーへの認知度の低さなど、男子15人制ラグビーとそれ以外のラグビーとの温度差が気になっていたという。

大阪生まれの39歳は幼少の頃にラグビーを始め、スタンドオフやウィングで活躍し、大学卒業後は東芝に加入。高校、大学、東芝とキャプテンを務めた。日本代表でも2012年にエディ・ジョーンズ現イングランド代表監督が指揮官に就任すると、キャプテンに任命された。代表キャップは28を数える。

 2016年に現役を退くと改めて経営学を学び、スポーツ関連を中心に数多くのプロジェクトに関わり、起業家として活躍の場を広げている。その一方で、車いすラグビーではアンバサダーを務め、普及活動に一役買ってきた。

また、昨年のラグビーワールドカップではスクラム・ユニゾンを結成し、出場チームの国歌を現地の言葉で歌って歓迎しようというキャンペーンを全国で展開。どの会場でも国歌斉唱で大きな歌声が響く盛り上がりを見せ、大会の雰囲気づくりに大きく貢献した。大会前に放送されたラグビーチームを題材にしたテレビドラマでは俳優業にも挑戦した。

廣瀬氏は常にアクティブに新たな局面を切り開いてきたが、どのプロジェクトでも、つながりと可能性を広げることに腐心し、多様性を活かそうという姿勢がうかがえる。

「ラグビーというグローバルなスポーツのおかげかな」と、元日本代表の司令塔は言う。

 本人によれば、子どもの頃は言わばインドア派。積極的に表に出たり人前で話をするタイプではなかったという。それが、社会人としてプレーを続ける中で、外国人選手との共同生活や国際試合での経験を通して、自分になかった考え方やモノの見方に刺激を受けて変化した。加えて、キャプテンとして、選手全員をつなげて最大限に力を発揮する方法を追求してきた経験も小さくなかった。

「僕らはラグビーを通して、たくさんのものをいただいている。それをお返ししたいという思いが出るのは必然的。今度は僕らから”ギフト“を届けたい。」

 同じ思いの仲間が集まって、One Rugbyが始まった。車いすラグビーやデフラグビーなど各競技団体から代表者が集まり、事務局には元日本代表キャプテンの菊谷崇氏らも加わっている。

オンラインで基礎固め

 今年2月に立ち上げたOne Rugbyは、しかし、スタートから予期せぬ事態に直面した。新型コロナウィルス感染症の世界的流行だ。社会経済活動はもちろん、スポーツ界も活動休止や行動の制約など大きな影響を受けた。

 廣瀬氏はOne Rugby発足前にも、車いすラグビーとタグラグビーの2競技を体験できるイベントを実施した経験から、同様の体験会や一つの競技会場で他競技の紹介など、新組織でも他競技間の「掛け算みたいなこと」をやろうと計画を温めていた。

 体験することでよりよく理解できると考える廣瀬氏は、自身もリオ五輪でパラスポーツの熱戦を目の当たりにし、パラアスリートのスキルの高さや競技そのものの面白さについて認識を新たにしていた。

だが、コロナ禍で体験型イベントの開催は保留。そこで「今できること」にスイッチして、オンラインテレビ会議システムで、車いすラグビー、デフラグビー、10人制、リーグラグビー、タッチラグビーなどを順次紹介。来年の東京オリンピックに出場する7人制についても、廣瀬氏は「セブンズはまだまだ知らない方が多い。そこに対するアプローチは必要」と指摘する。

オンラインセッションでは毎回、それぞれの競技団体から説明役が登場。ルールはもちろん、競技の背景、年間に行われる大会やシーズンについてなどについて説明しながら、一般参加者からの質問に回答していく。

「ルールや最低限知っておくと良いことをオンラインで始めている」と廣瀬氏。「ルールもそれぞれで結構違う。例えばタグラグビーは、日本ではキックはダメだが、国際ルールではキックをしてもいい。僕も知らなかった」と明かし、「競技の置かれている環境を知ることで、よりファンになっていける感じがすると思う」と語る。

セッションには手話通訳が毎回同席し、耳の不自由な人の参加にも対応している。

 15人制日本代表の影響力

 さまざまなラグビー競技の認知度を上げて盛り上げる。新たに動き出したOne Rugbyの活動を進める上で、男子15人制日本代表の影響について、廣瀬氏は「15人制が日本ラグビーの象徴であることは事実。影響はむちゃくちゃある」と話す。

2019年ラグビーワールドカップを経て、日本代表は世界的にも認知されるようになっている。新型コロナウィルス感染流行の影響で、今年予定されていたイングランドやアイルランドなど世界強豪とのテストマッチは中止を余儀なくされたが、2021年にはブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズとの対戦が決定した。

また、日本代表の選手の基盤となる国内リーグでは、2022年1月に新リーグが始まる予定で、その基盤となるジャパントップリーグのチームには世界トップクラスの選手の移籍加入も相次いでいる。

日本代表の今後について廣瀬氏は、「国際経験は必要。それをどう作るかが大事なポイントかと個人的には思う」と話し、海外でプレーする選手が増えれば、代表チームのレベルアップにつながるという見方を示した。そして、「いろいろな人に見てもらえるのは大きい。勝つことが大事だが、勝てない時でもどんな試合を見せるかが大事になる」と語った。

思い描くのは、15人制を中心にあらゆるラグビー競技が一つとなって、ラグビー界全体が大きく発展する未来だ。架け橋となるべく、One Rugbyがその一歩を踏み出した。

Photo credit: Rugby Magazine