「今の自分に必要なことはスーパーラグビーが持っている」

 10月22日に所属するジャパントップリーグのトヨタ自動車で行われたオンライン会見で、姫野和樹選手は来季の挑戦の場について、そう言った。

日本代表のバックローで活躍する26歳が、昨年のラグビーワールドカップを経て自分を見つめて出した答えの一つに他ならない。

 昨年の日本大会で日本代表の主力の一人として全5試合でプレーし、日本初のベスト8入りに大きく貢献した。国内外で新たなファンを含めて多くの人々を魅了した大会で、姫野選手は大きなインパクトを覚えていた。

プール戦を4戦全勝で勝ち進んだ日本は、準々決勝で優勝した南アフリカと対戦して敗れた。「あれだけ高いレベルの試合を毎週こなしていくのは初めてだった」という状況で最後はコンディションを維持できず、「自分のプレーが全然できなかった。もっと強くなりたいという向上心がすごく強くなった」と、姫野選手は振り返った。

それは、以前から抱いていた海外挑戦の思いを膨らませ、「スーパーラグビーという、すごくレベルの高いリーグで毎週準備して戦うことでタフになれる」と、一歩を踏み出す今回の決断につながった。

今季、スーパーラグビーは新型コロナウィルス感染流行の影響で通常シーズンの開催ができず、ニュージーランド国内5チームによるスーパーラグビー・アオテアロアが行われた。

その試合を見た姫野選手は、「ニュージーランドの選手に見えていて、僕にはまだ見えていない部分がある」、「自分に持っていないものを持っている選手がすごく多い」と感じたといい、自分をさらに磨く場所としてハイランダーズでの挑戦を決めたという。

自身で課題の一つと感じているオフロードパスや走るコース、サポートの仕方などのスキルを伸ばし、姫野選手の特長として知られているジャッカルも「うまい選手から吸収できるし、大きな選手からもしっかりボールを獲れるか試したい」と意気込んでいる。

ハイランダーズ指揮官はトニー・ブラウン

姫野選手が入るハイランダーズでは、トニー・ブラウンが今季のアシスタントコーチから来季はヘッドコーチに昇格。プレーオフに進出した2017年に続き、再びチームを率いることになっている。

ブラウンは日本代表でアタックコーチを務め、2019年ラグビーワールドカップでの日本の8強入りに大きく貢献した人物だ。さらに、日本代表でS&Cコーチを務めたサイモン・ジョーンズもいる。

 「僕に足りないものもブラウニーは知っていると思う。さらに伸ばすというところで、僕のことをより理解している人がいるのは、すごく大きいと思う」と姫野選手は言う。

 一方で、トヨタ自動車には、昨季から元ニュージーランド代表主将のNO8キアラン・リード選手がプレーしており、来季は姫野選手が「自分の中でその存在は大きい」という、オーストラリア代表主将でFLのマイケル・フーパ―選手の加入が決まっている。

2022年からの新リーグ発足前最後のトップリーグ2021シーズンへ、チームづくりを進めているディレクター・オブ・ラグビーのスティーブ・ハンセン元ニュージーランド代表監督らからも「残ってほしい」と慰留された。

だが、日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチには「海外挑戦は大事」というアドバイスをもらい、代表チーム同僚のリーチマイケル選手(東芝)からは「姫野はやれるから、行った方がいい」と背中を押され、堀江翔太選手(パナソニック)からも励まされた。

姫野選手は悩んだ末に、「海外に出る方が大きなものを得られる」と決断したと明かした。

目標は全試合出場

ハイランダーズは1999年にスーパーラグビー準優勝の後、日本代表のジョセフヘッドコーチが指揮を執った2015年に初優勝を遂げた。現在、ニュージーランド代表のSHアーロン・スミス選手、FLシャノン・フリゼル選手、PRタイレル・ロマックス選手らを擁している。

ハイランダーズでの目標は、「全試合出場とスーパーラグビー優勝」を挙げ、さらに「プレーだけでなく、リーダーとしても引っ張っていける存在になっていきたい」と話した。

トヨタ自動車で大卒加入1年目からキャプテンに抜擢された姫野選手ならではのターゲットだろう。2023年ラグビーワールドカップに挑む日本代表も、念頭にあることは想像に難くない。

また、姫野選手には、「ラグビーを日本になくてはならない存在にしたい」という夢もある。「自分が海外挑戦というチャンスを掴むことで、日本ラグビーに大きなものをもたらすと考えている。あちらで活躍する僕のプレーを見て、勇気や感動、何かを感じてもらえる子どもたち、選手たちがいればすごくいい」と語っている。

 当面はトヨタ自動車で練習をして、新たな挑戦に備える。ハイランダーズとの契約は来年1月から6月まで。

姫野選手は「何かを得て帰ってくると、期待して待っていてほしい」と力強く言った。