今回の合宿は今月28日までの4日間の短期セッションで、男子セブンズ日本代表のオリンピック候補選手のうち参加が可能だった21人を東京と大分に分かれて開催。新型コロナウィルス感染拡大を受けて3月下旬に活動が中止して以来、4カ月ぶりの集合だ。ブランクを考慮して、戦術やコンタクトプレーなどは行わず、基礎体力向上を主軸にしている。

東京と大分をオンラインでつないでミーティングも行い、男子セブンズ日本代表の岩渕健輔ヘッドコーチは初日終了後に応じたオンライン取材で、「五輪に向けて前向きにスイッチを入れていこう」とチームで再確認したと述べた。

東京大会が1年延期されたことについて、指揮官は「メンタル面でもフィジカル面でもチームにとって大きい」としたが、「世界中のアスリートが直面している課題。我々も前向きに乗り越えたい。一歩一歩進めながら、目標であるメダル獲得に向けてやっていきたい」と話した。

 この1年の違いで、チームには変化が生じている。

 日本が4位に入った2016年リオデジャネイロ五輪を戦った経験豊富な選手が、東京大会挑戦を断念。前回大会で主将を務めた桑水流裕策選手(コカ・コーラ)や、昨年の15人制ラグビーワールドカップでも活躍した福岡堅樹選手(パナソニック)らがチームを離れた。

 岩渕ヘッドコーチは選手離脱の影響を認めたものの、チーム始動となった2年前から「若手にもチームを引っ張る自覚を持つように進めてきた。1年後には十分穴を埋めてくれる活躍をしてくれると思う」と話し、若手の成長を期待する。

 一方で、来季のHSBCワールドラグビーセブンズシリーズへの復帰が決まっており、日本代表にとって重要な強化の機会になると見られている。

しかし、世界各地で新型コロナウィルス感染収束が見通せず、ワールドシリーズのスケジュールは未定。実施には海外渡航制限の緩和が不可欠で、シリーズ開始が遅れれば、代替えとなる対外試合の確保が必要になる。

 岩渕ヘッドコーチは、これまでも強化の一環として導入している、国内でプレーする外国籍選手によるチームとの練習試合も一案とする一方で、渡航後に自主隔離を不要とする受け入れが可能な近隣諸国と国際試合実施の可能性を探っていることを明かした。

チーム強化は「知恵比べ」

ニュージーランドやオーストラリアなど地域によっては試合が行われているエリアもあり、各国の競技活動には差が生じている。その中で「自分たちがどのように努力できるか。今まであった(競合国との)差を埋めていけるか。知恵比べ」だと、岩渕ヘッドコーチは語る。

 難しい状況ではあるが、日本代表指揮官は、活動中止前までに選手たちが見せてきたプレーに手ごたえも感じている様子だ。

 今年2月、来季のワールドシリーズ出場権をかけたHSBCワールドラグビーセブンズ・チャレンジャーシリーズ第2戦決勝で、日本は開催国ウルグアイを相手に0-0のまま延長戦に突入し、延長後半5分に主将も務めた松井千士選手がトライを決めて優勝。第1戦と合わせて獲得ポイントでトップに立ち、この総合ポイントが効いて、チャレンジャーシリーズ決勝大会はコロナ禍で中止になったが、日本の来季昇格が決まった。

 「本当にしびれるような経験だったが、選手たちは非常に前向きに楽しみながらプレーしていて、それがすごく良かった」と岩渕ヘッドコーチ。「それを考えると、このチームはのびのびと前向きにプレーができる時にいい結果が出る。(来年の五輪の舞台で)選手たちにそういうプレーをさせることが、私の一番の仕事」と語る。

藤田選手、メダル獲得へ「成長のチャンス」

藤田慶和選手(パナソニック)は、東京大会の1年延期をポジティブに捉えている。

五輪開催延期の決定は「自分たちにはコントロールできないこと」と割り切り、「1年成長できるチャンスを得た。ポジティブに、メダル獲得に向けて精一杯努力していきたい」と話す。

 活動自粛期間は京都の実家に戻って自主トレに励んでいたそうで、「長いシーズンを戦える体を作ろう」と考えてじっくりと取り組んでいたという。

 現在、東京を中心に感染者数増加の傾向が強くなってきているが、藤田選手は「まずは国民全体で感染を収束させるという意識を一人ひとりが上げることが大切」と話し、全国で安全に活動できる環境を整える大切さを指摘。「僕らは五輪があると思って準備をするだけ。それは明確」と動じる様子はない。

 15人制ではウィングやフルバックで活躍する26歳は、7人制代表チームの司令塔としての役割を期待されていると話し、「チームの司令塔としてのマネジメントだけでなく、自分のランニングも活かしつつ、チームを勝利に導きたい。中堅として、みんなを引っ張っていける存在になれるように」と、イメージを膨らませている。

 また、自身の母親が息子をオリンピック選手にしたいという願いを抱いていたことを明かし、「五輪に出場して母の夢を叶えたい」と話す。

東京大会で7人制をプレーすることについては、「日本でオリンピックをやることで、日本のスポーツの価値がぐっと上がるのではないかと思うし、まだあまり知られていない7人制競技を日本の皆さんに知ってもらうチャンス。僕たちがいい結果を残して、(昨年のラグビーワールドカップでの)15人制のように日本を盛り上げられたらいいなと思う。一人でも多くの方に感動や勇気を与えられる試合やプレーを目指したい」と意気込んでいる。

 男子セブンズ競技は2021年7月26日から28日まで、東京スタジアムにて行われる。

男子セブンズ日本代表五輪候補合宿参加メンバー:

<東京開催>

大石力也(NEC)、小澤 大(トヨタ自動車/JRFU)、加納遼大(明治安田生命)、合谷和弘(クボ/JRFU)、フィシプナ・トゥイアキ(セコム)、中川和真(キヤノン)、中澤健宏(リコー)、野口宜裕(セコム)、羽野一志(NTTコミュニケーションズ)、藤田慶和(パナソニック)、ヘンリー ブラッキン(NTTコミュニケーションズ)、松井千士(キヤノン)

<大分開催>

石垣航平(コカ・コーラ)、坂井克行(豊田自動織機)、副島亀里ララボウラティアナラ(コカ・コーラ)、津岡翔太郎(コカ・コーラ)、トゥキリロテ(近鉄/JRFU)、林 大成(JRFU)、彦坂匡克(トヨタ自動車)、本村直樹(ホンダ)、吉澤太一(コカ・コーラ)

注:JRFU=日本ラグビーフットボール協会