新型コロナウィルスの世界的な感染拡大を受けて1年延期された東京オリンピックの開幕まで、7月23日であと1年となった。東京大会での男子セブンズ競技は7月26日から28日まで、女子競技は7月29日から31日まで、いずれも東京スタジアムで開催される予定だ。

自国開催の大会でのプレー機会に、日本協会専務理事も務める岩渕ヘッドコーチが寄せる期待は小さくない。この機会に、15人制を主流として発展してきた日本ラグビーに7人制ラグビーの文化を根付かせたいという思いがある。

「オリンピックはチームが目標としている大きな大会。選手たちと一緒に戦ってメダルを獲るという目標を達成したい」と、岩渕ヘッドコーチはチームを預かる指揮官としての思いを口にした。代表GMという立場だった2016年、男子はリオデジャネイロ大会で4位に終わり、メダルを逃した悔しさを覚えている。

その一方で、代表チームの中長期的な強化の重要性を指摘する。

「オリンピックは東京で終わりではない。この先も続いていく。日本協会としてはオリンピックが良い影響となって、7人制を選ぶ選手が増え、15人制中心の文化にプラスアルファできるような(7人制の)環境や考え方を作っていく必要がある。」

日本ラグビーは15人制を中心として発展し、選手を取り巻く環境も15人制がベース。7人制代表でプレーする選手もジャパントップリーグで戦う15人制チームに所属し、チームの協力によって7人制代表での活動が可能になる。競技性の違いや代表チーム強化の都合から7人制に専念して、所属チームでの15人制の活動に参加しない選手も少なくない。

岩渕専務理事はトップリーグや企業、大学のチームからの協力に「なくては成立しない」と感謝する一方で、「選手には難しい選択をさせている状況で、改善しなければならない」と話す。

7人制の魅力を感じる機会

国内のラグビー認知度は、昨年のラグビーワールドカップ2019大会を契機に大きく変わってきた。地元開催の大会で、ブレイブブロッサムズこと日本代表が初の8強入りを達成する活躍を見せ、「にわかファン」と呼ばれる新たなファンも急増。大会観客動員数はのべ170万人を超え、日本対スコットランド戦では瞬間最高視聴率53.7%を記録した。

日本のラグビー熱は続き、今年1月に開幕したジャパントップリーグでは、新型コロナウィルス感染拡大の影響で第6節までで中断打ち切りとなったものの、入場者数は1試合平均11,366人をマーク。2018-2019シーズンの1試合平均5,153人からは倍増で、今季第2節のトヨタ自動車対パナソニック戦では、リーグ歴代最多となる37,050人の観客を集めた。

今年3月の時点での日本協会の登録選手数にも変化が見られ、6歳から12歳未満の若年層が前年同月比で約2,800人増加。ラグビーワールドカップ2019の影響で競技を始めた子どもたちと見られている。

「2019年ラグビーワールドカップがあったことは本当に大きなインパクト。ラグビーそのものを共有し、みんなで一緒に楽しむ楽しみ方を共有できた」と岩渕専務理事も、ワールドカップ日本開催の効果を認めている。それだけに、五輪のように7人制競技の魅力を多くの人に目にしてもらえる機会は、競技の普及と定着に重要な役割を果たすと感じている。

男子セブンズ日本代表の強化の場は、HSBCワールドラグビーセブンズシリーズが中心だ。昇降格を繰り返しているが、基本的には海外転戦が続くため、日本のファンがセブンズ日本代表のプレーを目にする機会はほとんどない。女子の太陽生命ウィメンズセブンズシリーズのような国内を転戦するシリーズもない。

一方で、高校生の7人制全国大会であるアシックスカップは2014年から開催され、2018年のユースオリンピックでは男子セブンズユース日本代表が銅メダルを獲得。昨年のユニバーシアード夏季競技大会では日本は男女ともに優勝を飾った。2014年から太陽生命シリーズを行っている女子も、サクラセブンズがアジアラグビー女子セブンズシリーズで5連覇を遂げている。国内大会の成果が出ている。

 「国内大会でレベルが上がったことが代表チームにつながっていることは間違いない。目標にできる大会をしっかりと作っていくことが重要だ」と岩渕専務理事は説く。

「東京オリンピックを契機に(7人制の)環境整備をできるように、いろいろなチームの協力を得て進めていきたい。この東京大会を境にそういう流れが出てこなければ、東京以降の五輪で大きなことをするのは非常に難しい」と話す。7人制文化を醸成することで、代表強化につなげたい思いがうかがえる。

女子HCは7人制競技者増加を期待

女子セブンズ代表チームを預かる稲田仁ヘッドコーチも、女子7人制の確立に東京オリンピックが契機となることを望んでいる。

 「ラグビーワールドカップで盛り上がって、ラグビー選手になりたいという子どもたちが多く出てきたが、女子ラグビーではまだなかなかそういう状況にはなっていない」と稲田ヘッドコーチは指摘する。

男子に比べて女子は7人制が主流と言えるが、競技者数は男子の20分の1ほど。今年3月に新規登録された6~12歳の選手約22000人のうち、女子は1割ほどだ。

稲田ヘッドコーチは、「東京オリンピックでサクラセブンズが活躍して戦っている姿を見せることで、『女子ラグビーはカッコイイ』『女子ラグビーの選手になりたい』と思う子どもたちや若い人たちが出てきてほしい。男子のおまけではなく、女子ラグビーというスポーツを確立するために、東京オリンピックは大きな意味を持つ」と語る。

「オリンピックは最高を目指している人たちだけが集まってくる大会で、卓越していることがオリンピックの価値。ラグビー選手の中でそこを目指せるのはセブンズの選手しかいないし、そこに立てるのは女子選手では12人しかいない。最高の結果を出すことが、女子ラグビーをさらに広め、価値を高めることになる」とサクラセブンズ指揮官は言う。

また、7人制ラグビーの魅力についても「15人制にはない楽しさやエキサイティングな部分がある」と指摘。それを東京五輪で見せることで「もっと身近に感じて広まる機会になれば」と期待している。

新型コロナウィルス感染に収束が見えず、不自由な練習を強いられている中で、男子セブンズ日本代表は、6月下旬から五輪代表候補選手を少人数に分けてグラウンド練習を開始。7月25日からはチーム活動に移行する。女子セブンズ日本代表も、8月に入って段階的に活動を展開する予定だ。