6月下旬から活動を再開した男子セブンズ日本代表は、新型コロナウィルス感染防止対策として、五輪候補選手を地域ごとに集めて少人数のグループで練習を行っている。

その2回目の練習に東京都内で参加した松井千士選手が7月9日、練習後にオンライン取材に応じ、「やっと練習が始まった」とコロナ禍で中断していたチームが動き出したことを歓迎した。

3月下旬、五輪本番まで4カ月というタイミングで感染拡大を受けて大会の1年延期が決定。「精神的に少し落ちてしまう部分もあった」と、松井選手はその当時を振り返ったが、その後は「準備する時間が増えたと考えると、セブンズ日本代表にとってはいいこと。チーム力も個人能力も上げられる1年にすればプラス」と受け止めている。

その一方で、日本が4位に入った2016年リオデジャネイロ・オリンピックを戦った桑水流裕策選手(コカ・コーラ)と橋野晧介選手(キヤノン)が2度目の五輪挑戦を断念し、チームを離れた。松井選手は、「ベテランの選手たちが抜けたのはマイナス」と指摘。リオ大会で主将としてチームをまとめた桑水流選手から、キャプテンの在り方を学ぶ機会を失ったと残念がる。

 松井選手は今年の2月、日本が来季のHSBCワールドラグビーセブンズシリーズ昇格をかけて参戦したチャレンジャーシリーズのチリとウルグアイでの大会で、キャプテンを務めていた。チャレンジャーシリーズは、4月に実施予定だった昇格決勝大会が新型コロナウィルス感染の影響で中止になったが、2大会通算の総合ポイントで首位に立っていた結果が活きて、日本はコアチームとして来季の参戦権を獲得した。

松井選手は、「最低限の結果は残せたと思う。世界に注目してもらえる大会だと思うので、未来につながる」と昇格を喜びながらも、東京五輪での成功を見据えて、組織力と個々のスキルの向上を課題に挙げる。

「組織の強いつながりが、まだ確固たるものになっていない。ワールドシリーズや五輪に出てくるチームとは、個々のスキルで劣っている部分もある。もう1、2段階、スキルアップしていかないと、まだまだメダルを獲ることはできない」と見ている。

組織力を重視する背景には、4年前のリオ大会をバックアップメンバーとして目の当たりにした経験がある。「まとまりがあればチームは勝つ」として、東京大会へ臨むチームが作りあげていかなければならない重要な要素であると、松井選手は捉えている。

ラグビー人生をかけて

また、大阪生まれの25歳は、2016年大会で試合に出られなかった悔しさをバネに、東京大会での飛躍を目指している。

「オリンピックにただ出るだけでは僕自身、満足できない。メダルを獲って、なおかつ、自分自身も活躍して世界で注目される選手になりたい」と思いは熱い。

 そのために、ラグビーにかける時間を増やそうと、社員選手として3シーズン在籍したトップリーグのサントリーを6月で辞めて、7月からキヤノンへ移籍。プロ契約選手として新たなスタートを切った。

 「場所を変えることで成長につながると思った。セブンズもだが、2023年のことも見越して、プロ選手になって自分のラグビー人生をかけて勝負したい」と、プロ転向の理由を明かした。

 そこには、東京オリンピックだけでなく、その先にある15人制の2023年ラグビーワールドカップに日本代表として出場したいという夢がある。15人制で同志社大学在学中の2015年に代表初キャップを獲得したが、その年のイングランド大会のメンバー選出には至らなかった。

 今回、プロに転身してまだ数日だが、コンディショニングやスピード強化のために陸上選手経験者に特別練習を受けるなど、自身の強化に時間を費やして「充実している」と笑顔を見せる。

 自粛期間中に取り組んできたウェイトトレーニングの成果も出てきたようで、久しぶりに会ったセブンズ日本代表の同僚から体が大きくなったことを指摘され、「自信がついた」と喜んだ。だが、すぐに「まだセブンズにフィットネスには戻っていない。体重も増えているので怪我のないように、体を慣らしながらやっていく」と、気を引き締めていた。

 松井選手には、新たなスピードスターとしての期待も寄せられている。

昨年の15人制ラグビーワールドカップで活躍した日本代表WTB福岡堅樹選手(パナソニック)が今年6月、医学部挑戦のために東京五輪挑戦を断念すると発表したが、その際に、自分より速い選手として名前を挙げたのが松井選手だった。

 ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチが「日本のフェラーリ」と称した福岡選手。そのウィングからの指名に、松井選手は「世界的にもすごくハードルが高くなった。でもすごく楽しみ。オリンピックで見せたい」と意気込んでいる。

 プロという新たなステータスで東京オリンピックへ再び動き出した松井選手。東京大会とその先へ、道を切り拓いていく。