新型コロナウィルス感染流行の影響で、各国のスポーツ界は活動休止を余儀なくされてきた。日本も例外ではなく、2月下旬から高校生以下を対象とした大会の延期や中止が相次ぎ、5月下旬に緊急事態宣言が全国で解除となった後も、依然としてチーム活動には感染防止のために制限が多い。

 そんな不自由な時期が続く最中、日本ラグビーフットボール協会のトップレフリー陣が中高校生のためにオンラインを活用した特別プログラムを続けている。その名もトップレフリーオンラインチャレンジ。

 中学高校のラグビー部員やその年代のラグビースクール生を対象に、オンラインでラグビーのルールについての理解を深め、疑問を解消してもらおうというもの。5月から毎週末に1回のペースで実施し、6月末までに参加した団体は、1回に3校が参加した特例もあって6月末までに10団体。募集は日本協会審判部門のフェイスブックという限られたチャンネルにも関わらず、すでに7月末まで受講希望の予約で埋まっている。

 「暫くラグビーはできそうもない。でも、僕らにできることはないのか」

 そんな思いから全国各地の自宅で待機状態が続いていたトップレフリーが話し合い、学校の教員を務めるレフリーが多いこともあって「子どもたちが心配」「中高校生になにかできないか」という声の多さを反映して、この年代を対象に絞った。

 日本協会のトップレフリーの一人としてプロジェクトに関わる久保修平氏によれば、これまでユースの選手を対象とした講習会の機会はなく、今回が初めての試みになる。

「特に僕は、中高校生のときにルールをしっかり分かっていたら迷いなくプレーできて、判断も変わってきただろうなと思うところもあった」と久保氏は言い、ユース年代でのルール理解の重要性を指摘する。

 オンラインでのセッションは1回約60分。「ゲームの中で一番起きる回数が多く、どのプレーにも共通する」というブレークダウンをメインテーマに設定。そこに、プラスアルファで受講者の希望するテーマを取り上げる。

日本協会トップレフリー25人で分担し、受講参加者の人数にもよるが、100人を超えるような大所帯の場合には担当レフリーの数を増やしてグループ分けで対応。受講生に女子がいる場合は女子レフリーが入ることもある。

例えば、6月14日に行われた東京高校とのセッションでは、2、3年生43人に対して久保氏、佐藤芳昭氏、吉原崇宏氏の3人のレフリーで担当。タックルでのルール理解を取り上げて、試合の映像や写真を使いながら説明し、セッションの前日にニュージーランドで再開したスーパーラグビーでの事例にも触れるなど、最新情報も話題に盛り込んだ。

 

試合さながらの流れ

レフリーチームの説明の間にも、生徒からは日頃から疑問に感じている判定基準についての質問が次々と出され、レフリー陣がそれらを随時ピックアップ。クイズ形式で回答を3択から選ばせて、その理由を問うなど、生徒を参加させながら進める。

一人のレフリーが説明を担当する間に、別のレフリーが簡潔にポイントをまとめてチャット欄に書き込み、要点を整理する。試合さながらのチームワークと対応で、セッションは終始テンポよく流れた。

「ゲームと同じで、僕らはリアクティブ。選手がプレーをして、それに対して僕らが判断していくというのが基本。まずは彼ら生徒さんにやっていることをしっかりやってもらうというスタンスでいたい」と久保レフリーは語る。

重要なのは疑問点を生徒に話させることだと言い、そうすることでレフリー陣が「この部分が疑問だったのか」と改めて気づかされることも少なくないという。また、セッションを重ねるにつれて、この年代に共通した傾向も見えてきた。

 その一つが、タックル後のロールアウェイの判断。ボールキャリアーを抱え上げるようなタックルをしてモールになった場合、モールが崩れた場合はタックルではないのでロールアウェイの必要はないが、「ロールアウェイをしなくてはいけない」と答える生徒が、どの受講グループにも2~3割はいるそうだ。

 久保レフリーは、「僕らも試合ではなかなか細かく説明をしてあげられないので、彼らからすると『笛を吹かれた』ということだけが残っているかもしれない。そういう意味では、今回のオンラインチャレンジで(正しい)知識を得て、次にグラウンドでパフォーマンスとして出してもらえれば」と語る。

 

若手レフリーと将来への期待

ラグビーでは選手とレフリーの試合中のやりとりは一般的だが、それでも、ユース選手とレフリーが直接やりとりをしながら学ぶ機会は、そう多くはない。しかもスクリーン越しというオンラインの限られた時間と空間でのやりとりで、当初は進め方に戸惑いもあったという。

だが、受講生からは各セッション後に「クリアになってよかった」「ルールを知らないという不安がなくなった」「次から試合や練習に活かしたい」など、参加を喜ぶ声が多く寄せられている。

「彼らのためになるものがあったと思えて、我々もうれしい」と久保レフリー。「彼らが将来、『そういえば、中高生の頃にレフリーと話をしたことがあったな』と思い出してもらって、レフリーを志す一つのきっかけになれば」という思いも口にした。

 加えて、若手レフリーにとっては「どれだけ端的に、選手が理解できる言葉で説明できるか」、実際の試合で求められる要素を鍛える機会にもなっているという。

「若手も少しずついろいろな経験をしていかないとならないが、意欲的に取り組んでくれている」と、若手育成の効果でも期待している。

 そこには、昨年のラグビーワールドカップをアシスタントレフリーとして経験した、久保レフリーならではの思いもある。ラグビー界最高峰の舞台へ日本人として唯一人、選出された。

「ホストユニオンの枠があるわけでもない中で、なんとか食い込めたことはうれしい反面、ピッチに立てなかったくやしさはある」と振り返る。大会を経て「何が足りなかったのか」と自問自答を繰り返しながら、更なるレベルアップを目指しているという。

その一方で、「ラグビーワールドカップで笛を吹ける日本人を作り出したい。その思いがすごく強い」と話す。それだけに、今回の中高校生とのふれあいの機会が「もし、子どもたちの中で、そういうきっかけになってもらえたら本当にありがたい」と語る。

プログラムは軌道に乗ってきたところだが、久保氏によれば、今回のオンラインチャレンジの試みは7月末で一区切りとする予定だという。

感染状況に落ち着きが出てきた社会情勢に合わせて、フィールドでの活動へ戻ることを想定して、オンライン受講の希望があれば受ける形に縮小する方向で、久保レフリーは「オンラインでやってきたことを、オンフィールドで体現する。この発展形をこの先考えていきたい」と話している。今後の展開にも注目だ。

Photo: JRFU