「すごくいいフィニッシュで、うれしい。いいメモリーばかり。16年前からずっと応援してくれて、本当に感動する。みなさん、ありがとう」

トンプソン選手は、秩父宮に駆けつけたファンへそう語りかけた。この日集まった観客は14,599人。11月に大阪の花園で行われた豊田自動織機戦の15,596人次ぐ多さだ。

「トモさん」のニックネームで大勢の人に親しまれるニュージーランド出身の38歳は2004年に来日。最初の2年間三洋電機(現・パナソニックワイルドナイツに所属した後、近鉄へ移った。それから今日まで東大阪に居を構えて近鉄でプレーを続けてきた。2010年には日本に帰化し、大阪弁を巧みに操り、冗談で人を和ませる。

フィールドではハードなタックルと献身的なプレーがトレードマーク。この日のラストゲームでもタックルを繰り返し、オフロードパスを見せ、80分間チームのためにハードワークを続けた。近鉄はこの日の快勝で、今季7戦全勝で2部にあたるチャレンジリーグ優勝を決めた。

71キャップを数える日本代表では、2007年から2019年大会まで4大会出場に出場し、ワールドカップ14試合出場という日本代表歴代最多記録を持つ。2007年大会のフィジー戦では2トライもマークした。

2015年大会後に一度は代表引退を表明していたが、2017年6月のテストマッチでスポット参戦の形で復帰。2019年2月からはサンウルブズに入り、チーフス戦の勝利に貢献するなど力強いプレーを見せると、2019年大会のメンバーに。日本大会では4試合に出場し、タックル成功率96%をマークするなど日本初の8強進出に貢献した。

「日本代表に入ったことはすごく誇りに思う」とトンプソン選手。「日本のファンはすばらしい。本当にありがとう」

 チームを第一に考える男は、来日後に初めて試合をした「特別なグラウンド」という秩父宮で迎えた最後の試合の終了間際のトライ場面でも、ゴール前のラックから出たパスを右オープンへ展開。チーム11本目でハットトリック達成となるFBセミシ・マシレワ選手のトライにつなげた。

 また、16シーズンで初めてというキックも披露。チームメイトの粋な計らいで、後半32分に62-0としたトライ後のコンバージョンキックを任されると、子どもの頃にサッカーに親しんでいたキック力を発揮。見事に成功させて観衆を沸かせた。

 最後のトライ後にもコンバージョンを任されたが、右サイドからの角度のあるキックは惜しくもポスト左へ逸れた。「最初の(キック)だけで良かったよ。(成功率が)50%と100%じゃ違うからね」と苦笑い。

 試合後にはグラウンドを一蹴して、集まったファンに別れを告げた。子どもの姿も多く、「トモさん、ありがとう」と書かれたカードを手にする人の姿も多かった。チームメイトからは胴上げされ、自身の背番号4と同じ数だけ宙を舞い、対戦した栗田工業から花束が贈られた。

 ファンへ向けた最後のメッセージを求められると、トンプソン選手は「言葉にするのは難しい」と言いながら、「ファン、すばらしいチームメイト、本当にありがとう」と一言。短い言葉に万感の思いを込めて、ラグビー人生を締めくくった。