【横浜・11月2日】南アフリカが終始優位に試合を進める展開となったラグビーワールドカップ2019決勝。スプリングボクスは、一度もリードを譲ることなく栄冠を手にした。ワールドカップ決勝では、リードを奪ってハーフタイムを迎えたチームが負けたことはいまだかつてない。

スプリングボクスは、6点差をつけて折り返し、後半25分を経過してもまだ6点リードしていた。3度目のワールドカップ決勝を戦う南アフリカは、この時点までファイナルでトライを挙げたことはなかった。

マカゾレ・マピンピと彼のチームメートが歴史を変えた。

南アフリカのフルバック、ウィリー・ルルーのチップキックをエリオット・デーリーがタッチライン近くでさばく。デーリーがタッチに押し出されるのを避け、2度のラックが続いた後、ボールを手にしたベン・ヤングズが取るべきオプションは、ボックスキックしか残されていなかった。ヤングズは、イングランド陣内に少し入ったばかりのところまでボールを蹴り戻したが、そこでは既にルルーが待ち構えていた。

ボールを受けたルルーがタックルされ、ターンオーバーを狙ったイングランドの3選手がそれに続くラックに折り重なるようにして加わる。南アフリカは、素早くプレーを動かし、その間、ファフ・デクラークは左サイドのスペースを感知していた。最前線の防御ラインの後ろで最も近くにいたイングランドのディフェンダーは、プロップのジョー・マーラーだった。そこにはちょっとしたディフェンスの穴ができていたが、突破するためには素早いボール回しが必要だった。

デクラークは、ルカニョ・アムにパスを出すと、アムは咄嗟にイングランドの守備陣との間合いを計った上でマルコム・マークスにつなぐ。そして、サブとしてピッチに立っていたフッカーのマークスは、オーウェン・ファレルのタックルを受けながらも左サイドを走るマピンピにボールを送った。マーラーがマピンピを止めるチャンスは残されていなかったものの、マピンピは突進してくるビリー・ブニポラをかわす必要があった。

 マピンピは、ブニポラの頭越しにフィールドのやや内側に向けてチップキックを繰り出すと、マークスにパスを送った後も走り続けていたアムがイングランドのスクラムハーフのヤングズに走り勝つ。イングランド守備陣の最終ラインを形成していたデーリーは、アムがボールをキャッチしたらタックルできる位置にいた。

アムはヤングズを引き付け、すぐ外側にはフリーで並走するマピンピがいた。アムは、ボールを手にすると瞬時にマピンピにパス。そして、マピンピは悠々とインゴールにボールをタッチダウンし(上の動画)、イングランドは「ゲームオーバー」を迎えた。

南アフリカのフルバックを務めるルルーは、今大会で不安定なプレーが続いていたことからイングランドが突くべき弱点と見られていたが、皮肉なことに彼のクレバーなキックがマピンピのトライにつながる好機を生みだした。そして、プレッシャーを受けることなくヤングズのクリアーをキャッチしたポジション取りも見逃せない。

トライを奪うチャンスがなかなか訪れないゲーム展開の中で、スプリングボクスは、ルルーのキックからその機会を見出した。デクラーク、アム(2度も)、マークスの素早い判断とプレーがあったからこそでもある。

イングランドは、相手ディフェンスの壁を崩そうと試みたが、より巧妙に磨き上げられた細かいスキルを生かしたスプリングボクスが栄冠を手にした。3度目の決勝にして初めて決めたトライがイングランドの息の根を止めた。

RNS sdg/ajr/mi