【東京・11月2日】3連覇を逃したオールブラックスにとって、ラグビーワールドカップ2019は失意のうちに終わった大会かもしれない。

イングランドとの準決勝を控えて「優勝しなければ、ニュージーランドにとっては『失敗』を意味するのか?」という厳しい質問に主将のキーラン・リードは次のように答えた。

「もちろん、人々は優勝しなければ失敗したと言うだろう。それは受け入れる。それがオールブラックスの本質であるし、われわれへの見方だ。勝つことだけを期待されている」

そういう見地に立てば、議論の余地はない。タイトルを防衛する立場で臨んだ今大会で残した結果は落胆以外の何物でもない。

しかし、2011、15年大会を連覇し世界最強とうたわれる過程で紡いだ流麗なランニングラグビーは、疑う余地なく素晴らしいものであったし、今大会の5試合で披露したプレーは絶品と言うべきものだった。

ファイナリストとなった南アフリカを横浜での初戦で下したのを皮切りにグループリーグを楽々と首位で通過。スティーブ・ハンセン監督が「スペシャルな」結果と形容した準々決勝のアイルランドに対する勝利、そして、ウェールズとの3位決定戦では持ち前の奔放なラグビーが弾けた。

しかし、究極的には、ニュージーランドにとって今回のワールドカップは、準決勝の1試合に集約される。2007年大会の準々決勝でフランスに敗れて以来、ワールドカップで18連勝し本命として臨んだイングランドとの試合を落としただけでなく、ゲームのすべての面において完敗とも言うべき屈辱を味わったのだ。

世界王者の称号を失ったのみならず、オールブラックス史上最大の敗戦だった。言い訳のできないゲームであり、彼らも一切言い訳をしなかった。

公の場で涙ながらに悲嘆に暮れるなど、率直なまでに失意の胸の内を隠さず過ごす中、ハンセン監督が「キャラクターが試される」と描写した6日後の3位決定戦ではウェールズを圧倒した。

実際、大会を通じて、ニュージーランドは他のどのチームよりも輝かしいスタッツを残している(決勝戦を除く)。トライ数(36)、1試合平均得点(41)、タックル成功(851)、個人最多得点(リッチー・モウンガ、54)、獲得メートル(ボーデン・バレット、460)。

問題は何か?3位という結果なのだ。「優勝なくしてはオールブラックスなし」というこの上なく高い期待値とスタンダード(標準目標)である。

しかし、スティーブ・ハンセンという優れた指導者の下、オールブラックスは勝利の中であくまでも謙虚であり、敗戦の中では寛大だった。そして、日本にとってこのお祭りのようなワールドカップを通じて、彼らはラグビーの親善大使としての役割を完璧に果たした。

そう。彼らのワールドカップは一時代の終焉を迎えた。だが、新しい時代の夜明けはそう遠くない。

「今後、より激しい競争が繰り広げられると思われるラグビーの国際舞台で、オールブラックスに『ハンセン時代』のような圧倒的な強さが今後蘇るか?」との問いかけに応えて、ハンセン監督は「そうなると望んでいる。このチームが成し遂げることを望んでいる」と話している。結論を出すのはまだ早い。

ヘッドコーチ

ニュージーランド史上最高の監督との声も多いハンセンは、今大会を最後に退任する。2019にチームを再建し、ボーデン・バレットとリッチー・モウンガの2人を司令塔として起用する革新的な戦術を採用するとともに、俊足のウィング、ジョージ・ブリッジとセブ・リースを起用したが、窒息を誘うようなイングランドのディフェンスの壁に屈した。

ハンセンは、ロックを本職とするスコット・バレットをブラインドサイドのフランカーとして起用する戦術が裏目に出たことを認めている。190センチを超える長身のスコット・バレットの起用は、フォワードパックに頑強さを加え、ラインアウトにオプションをもたらすとしていた。ハンセンは、過去10年近くにわたって彼のチームが展開した流麗でアイディアあふれるラグビーの記憶をもたらし退任する。

プレーヤーオブザトーナメント

ボーデン・バレットは、過去に2度ワールドプレーヤーオブザイヤー(世界最優秀選手賞)に輝いたその経歴が示す通り、フルバックの位置からスペースをついて駆け上がるイマジネーションあふれるプレーを存分に披露した。イングランドの守備網をかいくぐることはできなかったが、その試合でも100メートル以上のボールキャリーを記録している。

バックローのダイナモとして奮闘したアーディー・サベアは、大会を通じてチームで最高のパフォーマンスを見せたが、イングランドの「カミカゼキッズ」、トム・カリーとサム・アンダーヒルのタックルに屈し、ひざのけがにも悩まされた。サベアは、ボールキャリーとディフェンス両面で抜群の働きを見せ、ワールドカップで初めて保護ゴーグルをつけてプレーした選手にもなった。

ピッチ外での最も印象的なシーン

オールブラックスは、滞在中にファンクラブを訪ねるなど日本各地の人々との交流に努めた。グループステージ初戦となる南アフリカとの試合後、ピッチ上のさまざまな場所から客席に向かってお辞儀をしてファンの歓声に応える姿が印象的だった。ハンセン監督をはじめとするチームは、親善大使としての役割を十二分に果たした。

ピッチ上での最も印象的なシーン

2つ。グループステージの南アフリカ戦での最初のトライ。モウンガのキックから始まり、ジョージ・ブリッジが決めたフィニッシュ。魔法のような一連の流れるようなプレーに勝るものはなかなか見つけられない。もう一つは、プールステージ最終戦でのトライ。ブラッド・ウェバーの信じがたい背面パスを受けてフリーになったTJ・ペレナラが左隅に飛び込んで決めた「フライング・タッチダウン」。往年の名選手、ジョン・カーワンはこのトライを、大会を通じてベストと評した。

3位決定戦

ラグビーワールドカップ2019を最後にオールブラックスから引退するスタープレーヤーたちにとって、ウェールズとの3位決定戦は、この上なく完璧に飾り付けが施された花道となった。

上皇上皇后ご夫妻が5万人近い観衆を集めた東京スタジアムで観戦される中、ウェールズを40-17と圧倒したゲームの中心は、この夜限りでテストマッチに別れを告げる名選手たちだった。

最後のテストマッチでも主将としてチームを率いたキーラン・リードが絶妙のキャプテンシーを発揮。ベン・スミスがチームに与えたインスピレーションは、なぜ彼が偉大なバックスとして世界的な名声を獲得したのかをいま一度ラグビー界に知らしめるかのようだった。

期待に違わず見る者を魅了し続けたブロンズメダルマッチで、オールブラックスは6トライをマーク。スミスのまばゆいばかりの2トライに加え、ジョー・ムーディー、ボーデン・バレット、ライアン・クロティ、リッチー・モウンガがそれぞれ1トライを決めた。

ニュージーランド出身のウォーレン・ガットランドもこの試合を最後にウェールズ代表監督から勇退した。

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