【東京・10月28日】ラグビーワールドカップ準決勝で南アフリカに惜敗し、悲願の決勝戦進出を逃したウェールズ。

うつろな表情、落胆に暮れたまなざしで引き揚げる選手たちの落ち込みようは、ゲームの舞台となった横浜からはるかかなたへと放たれるかのようだった。

歴史は繰り返す―。1987年の第1回大会ではニュージーランドに、2011年大会ではフランスに屈した準決勝の記憶が蘇るウェールズサポーターも多いだろう。劣勢を跳ね返した末に残り5分で南アフリカに決勝点を許した展開は、8-9で涙をのんだ8年前に劣らぬ大接戦だった。

その24時間前、同じような内省を迫られたのがオールブラックス。12年と18試合にわたってワールドカップで磨き上げられてきた無敵の試合運びが、ハングリーなイングランド代表のどう猛さの前にもろくも崩れ去ったのだ。

イングランドにとっては、彼ら自身の歴史をつくる決意に満ちた試合だった。

共通する感情と対照的かつ魅力的だった2つの準決勝のゲーム。そこから浮かび上がった興味深いポイントを挙げてみた。

完璧だったポラード

ウェールズ-南アフリカのゲームは、開始早々から明らかに消耗戦の様相を呈していた。流れるようなラグビーでスリリングな試合を演出した1次リーグのオーストラリア戦とは打って変わり、ペナルティーキックで勝負が決すると予想することは難しいことではなかった。そして、どちらのチームのキッカーがより冷静にボールを蹴るかが勝者と敗者を分けるだろう、とも…。

ウェールズのダン・ビガー、リー・ハーフペニー、リース・パッチェルの3人は世界的なゴールキッカーとして知られている。南アフリカのスタンドオフ、ハンドレ・ポラードのプレースキックの技術も一級品。2016年から2019年にかけてポラードが見せたキックの技術、特に角度のない所からのキックの精度は、スプリングボクスが今大会、コンバージョンキックにおいてトップクラスのチームであることを物語っていた。

しかし、準々決勝までポラードの調子はいまひとつ。ゴールを狙うペナルティーキックの成功率は75%(8回中6回成功)、コンバージョンに至っては55%(11回中6回成功)と低かった。双方合わせて63%の成功率ということになる。

だが、彼の調子はこの僅差のゲームでベストに戻っていた。ウェールズは8つのペナルティーを相手に与えたが、ポラードは会心のキックを見せ続けた。結局、コンバージョン1本と、決勝点となったキックを含む4つのペナルティーゴールを成功させ、失敗はゼロだった。

オールブラックスを驚嘆させ、歴史を塗り替えたイングランド

イングランドは、26日の準決勝に臨むまでニュージーランドとのテストマッチ16試合中15敗を喫し、ワールドカップでは3試合(1991、1995、1999年)すべてで敗れている。スポーツ界最強チームの1つであるオールブラックスを相手に番狂わせを演じるには、特別なパフォーマンスが必要だということは常に分かっていた。

この試合でイングランドは、終始自分たちのペースで試合を展開。開始2分でマヌ・ツイランギが決めたトライは、ワールドカップで対戦相手がオールブラックスから奪った得点の中で最速となった。

 一方のニュージーランドは、強烈なタックルに象徴されたように、イングランドのどう猛なまでにフィジカルな戦いぶりに直面し、ついにピッチ上で自分たちのテンポを見出すことはできなかった。サム・アンダーヒルは、オーストラリア戦同様、ピッチ中央で相手の突進をせき止める巨像と化し、この試合最多となる16本のタックルを成功させた。

ハーフタイムで0-10とリードされたオールブラックスは、必死に反撃を試みたが、オフロードバスに頼っては相手にターンオーバーを許すという展開になった。ニュージーランドが無得点で前半を折り返したワールドカップの試合は、1991年までさかのぼらなければ見つけられない。

ニュージーランドは後半、アーディー・サベアのトライで5-13と差を縮めてからでさえ、滑らかな攻撃は見られずじまいだった。結局、イングランドが与えたペナルティーの数6に対し、ニュージーランドは11。イングランドのジョージ・フォードはペナルティーキックで5回ゴールを狙い、そのうち4本を成功させてオールブラックスの息の根を止めた。

イングランドは、今大会でオーストラリアとニュージーランドを倒した。これは1995年にワールドカップを制覇した南アフリカが同大会で記録して以来、2チーム目となる快挙となった。

イングランドのファンにとっては、縁起のいいスタッツである。

RNS dc/sw/mk/mi