【東京・10月25日】マカゾレ・マピンピはほんの3年前まで、大きな夢を抱きつつも無名のウィンガーとして資金難にあえぐ南アフリカ1部リーグのクラブ、ボーダー・ブルドッグスでプレーしていた。

有り余るスピードとトライを奪う鋭い嗅覚を持ち合わせてはいたが、東ケープ州の黒人居住区出身のこの若者がスプリングボクスでプレーするようになると思う者は少なかった。ラグビー強豪校に通ったわけでも、プロクラブのアカデミーのスカウトに注目されたわけでもない。そもそもラグビーは彼の家族の中では1番人気のスポーツですらなかった。

「家族の中でラグビーをプレーした者なんて誰もいなかった。僕が最初で、一人だけだよ」とマピンピは話す。

スーパーラグビーで初めてプレーしたのが2017年。サザン・キングスに所属しそのシーズン3位タイとなる11トライを挙げ一気にブレークを果たすと、2018年の夏に代表から声が掛かった。初キャップを獲得したゲームは、今週末のワールドカップ準決勝でぶつかるウェールズが相手だった。その代表デビュー戦でテストマッチ初トライを挙げると、次のアルゼンチン戦でさらに2トライをマーク。出場した最初のテストマッチ12試合で13トライを挙げる脅威の決定率で、スプリングボクスの最も強力なトライゲッターとなった。

「ここ2、3年のスーパーラグビーやPRO14リーグ(欧州と南アフリカのクラブが参加する競技会)でのマカゾレは、常に最高のフィニッシャーだった」と南アフリカのムズワンディル・スティック・アシスタントコーチは話す。

今大会でこれまでに挙げた5トライは、ウェールズのジョシュ・アダムズの7トライに次いで、日本の松島幸太朗と並んで2位タイ。

準々決勝の日本戦で最初に決めたトライ(上)には彼の嗅覚が凝縮されていた。スクラムの後ろで構えてボールを受けると、日本の守備陣の不意を突いて一気に加速。2人のタックルを難なくかわしインゴールを陥れた。

下のビデオで分かるように、好調時のマピンピはとっさの反応が一級品。試合終盤、疲れが見える日本に対し南アフリカがカウンターを仕掛けると、スピード、スタミナとも落ちる様子のないマピンピは逆サイドを疾走。フルバックのウィリー・ルルーからのパスをタイミングよく受けると、並走する松島を強引に振り切り左隅に飛び込んだ。

この試合では111メートルをゲイン。相手を5度かわし、4度のクリーンブレークを決めるなど、いずれも出場選手中トップとなる大車輪の活躍を見せた。

マピンピはまた、守備でも効果的な動きを見せている。日本戦でも大きな貢献を見せ徐々にブレーブ・ブロッサムズの戦意を削いだ。チームで5人しかいない二桁タックル(10)をマークし、1試合で100メートル以上のゲインと二桁タックルを記録した今大会4人目のプレーヤーとなった。

それまでにこの数字を達成したニュージーランドのアントン・レーナートブラウン(対ナミビア)、日本の姫野和樹(対ロシア)、アルゼンチンのフアンクルス・マリア(対アメリカ)が格下とみられる相手に対し達成していることを加味すれば、よりその価値は上がる。

こうしたディフェンス面での成長が著しく、チーム内ではこの1年で最も伸びた選手としてマピンピの名を挙げる者が多い。

「去年代表に初めて呼んだ時は、彼のディフェンスや空中での技術に多くの疑問を感じていた。実際のところ、彼にピッチに立つチャンスが訪れた時も少し心配していた。キングズやチーターズで相手の守備を切り裂くのは見ていたが、ほかの技術を磨く機会はほとんどなかったから」とスティック・アシスタントコーチは話す。

「地方出身の選手はボールを蹴ることを奨められていない。けれども彼はたくさん努力したし、われわれは彼のプレーが良くなってきているのを見ている。それもプレー全般にわたってだ。ここ1年で彼が一番伸びたというのはそういうことだよ」

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