【東京・10月21日】アジアで初めて開かれたラグビーワールドカップで1試合ごとに確実に歩を進め、歴史的な結果を残した日本。1次リーグA組を4戦全勝で堂々と首位で通過し、史上初のベスト8入りを果たした。選手やスタッフが呪文のように唱えた準々決勝進出という目標を達成し、世界ランキングも8位まで上昇。開催国として日本のみならず、アジア全体が胸を張ることのできる成績を挙げ、その献身的かつ創造性にあふれるプレーは国内はもちろん、世界中に多くの新たなファンを生んだ。

4強入りを懸けた20日の南アフリカ戦に敗れ、今大会唯一の黒星を喫したものの、この準々決勝戦前の世界ランキングは過去最高となる6位にまで上り詰めた(大会開幕時は10位)。今大会の結果により、フランスで2023年に開かれる次回のW杯出場権も獲得した。南ア戦後に主将のリーチマイケルを祝福したCTBダミアン・デアレンデ(写真上)のように、日本は今大会を通じ尊敬に値するパフォーマンスを見せた。

ヘッドコーチ 

成功の立役者となったのがニュージーランド出身のジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)。海外では「ブレイブ・ブロッサムズ(桜の戦士)」との愛称で知られる日本チームの指揮を3年間執る傍ら、スーパーラグビーに日本から初めて参入したサンウルブズでも1年間HCを兼任し、チームの強化を進めた。同国出身のトニー・ブラウン・アタックコーチをはじめとする優秀なコーチ陣を的確に配置し、フィットネス、タックル、スクラム、攻撃時の発想からメンタル面の準備まで、このチームをあらゆる面からテコ入れした。「ワンチーム」をスローガンに、今年だけで240日の合宿をともにするなどチームの融和と信頼醸成を図った。

ロシアとの開幕戦後、精彩を欠いた絶対的支柱の主将リーチマイケルを「まずプレーのところをしっかりしないといけないので、のしかかる責任を軽減」するため控えに回す大胆な采配も振るった。アイルランドとの第2戦で前半途中から投入され、鬼気迫るプレーを見せたリーチの反応、そして以降3試合のリーチの活躍を見れば、この決断が吉と出たことは明白だった。

5試合フル出場を果たしたのはフランカーのピーター・ラブスカフニ(HIA=頭部外傷のチェック=の時間を除く)、CTBラファエレティモシーとチーム最多の5トライを挙げたWTB松島幸太朗の3人。31人中5人はベンチ入りすら果たせなかったが、緻密な対戦相手分析に欠かせない存在として躍進を支えた。一方、この起用法や選手層の薄さが、南アフリカ戦での最終的なガス欠につながった可能性はある。

日本ラグビー協会はジョセフHCの大会後の契約延長交渉を示唆している。

プレーヤー・オブ・ザ・トーナメント

爆発的な加速からジョセフHCに「フェラーリ」と呼ばれたWTB福岡堅樹。1次リーグで計4トライを挙げたが、中でもW杯初トライとなったアイルランド戦の勝ち越しトライ、そして運命のスコットランド戦で挙げた2トライは世界中のファンの脳裏に長く残ることになるだろう。

今後、日本代表として15人制ラグビーのテストマッチに出場することはないと明かしている27歳。2020年東京五輪で7人制ラグビー、その後の15人制の国内リーグでのプレーを最後に祖父、父と同じく医師を目指す。

記憶に残るシー
 
グラウンド内:静岡で優勝候補アイルランドを撃破し、4年前のW杯イングランド大会で南アフリカを破った「ブライトンの奇跡」に続く衝撃を世界に与えた日本。歴史的瞬間という観点のみから考えれば、アジア初の8強進出を決めたスコットランド戦の勝利に軍配が上がるかもしれない。4年前、決勝トーナメント進出を阻まれた宿敵を倒した一戦は、前日に日本を襲い、80人(20日現在)もの命を奪った台風19号の爪痕が残る中での開催でもあった。試合後、ピッチ上の選手やスタッフ、会場の観客は「最後は笑える日が来るのさ」と歓喜の中、「ビクトリー・ロード」を歌い上げた。
 
グラウンド外:大会が進むにつれて日本中で存在感を増していったブレイブ・ブロッサムズ。写真撮影にも気さくに応じるなど、選手たちは突如ヒーローとなったことだけでなく、ラグビーそのものが認知され始めたことを楽しんでいる様子だった。
 
これから
 
38歳で4度目のW杯出場を果たしたロックのトンプソンルークは、福岡と同様に今後、赤と白のジャージーに袖を通すことはない。3度目の出場を果たしたフッカー堀江翔太、SH田中史朗とリーチ、また2度目の出場となったSO田村優の去就は不透明。
 
コメント集
 

ジョセフHC

アイルランドに勝って
「アイルランドは明らかに非常にクオリティーの高いチームだが、我々はこの試合に時間を掛けて準備した。この3年間、焦点を当ててきた。 アイルランドはこの試合のことを月曜日から考えていた」

南アフリカ戦後
「日本ラグビーは本当にいい位置にいる。まずは達成したことを味わいたい。多くの人たちのたゆみない努力が私たちを結びつけてくれた」

姫野和樹

スコットランド戦の翌週、ティア1、ティア2の概念を崩したかを問われ
「もちろん。見ての通りすごくいいラグビーをしていると思うし、自信を持ってアイルランド、スコットランドと戦えたので。そこは自信を持って言えると思う」

リーチマイケル

スコットランド戦翌日
「日本の子どもたちが自分たちの試合を見て、日本代表になりたいという選手が増えると思う。これから代表はもっともっと強くなる」

南アフリカ戦を終え
「本当にこのチームを誇りに思っている。ジェイミーをはじめ、ワンチームを作り上げてきて、本当に努力をして勝つために全てのことをやってきた」

田村優

南アフリカ戦を終え
「プール戦を突破してからの課題や準備の仕方は次の世代に託す。でも僕が入ったときよりはいい状態で終われた。次へのバトン渡しは完了した」

堀江翔太

大会総括会見で
「2011年W杯の時にニュージーランドから帰ってきたら記者が2、3人だった。今、目の前にこれだけいるのは考えられない」

田中史朗

大会総括会見で
「(同じSHの)若い流(大)や茂野(海人)をはじめ、期待できる人材がいっぱいいる。国としても継続して強くしないといけない。これからも日本のラグビー全て、学生、子供、僕たちトップリーガーがコネクトできて、日本として強くなっていけばベスト4も夢ではない。昨日の試合も誇りに思える代表だったし、夢と希望を与えれるような代表になると思う」

大会成績

1次リーグA組:
第1戦 ロシアに30-10で勝利(東京)
第2戦 アイルランドに19-12で勝利(静岡)
第3戦 サモアに38-19で勝利(豊田)
第4戦 スコットランドに28-21で勝利(横浜)

準々決勝 南アフリカに3-26で敗れる(東京)

数字

8-南アフリカ戦後の最新世界ランキング。ティア1のスコットランド、イタリア、アルゼンチンより上位
5480万-スコットランド戦の最高瞬間視聴者数(推計)
1300万-スコットランド戦のラグビーW杯公式ツイッターの閲覧数。英語ページの倍以上
29-南アフリカ戦の両チーム合計得点数。今大会ここまでで最少
3-スコットランド戦でプロップ稲垣啓太の逆転トライ直前につないだオフロードパス
51-日本チームの選手、スタッフ総数

 RNS mn/ns/mk/mi