7月30日夕方、照りつける真夏の陽射しは東京スタジアムのスタンドの影にようやく隠れたが、無人の観客席に四方を囲まれて、日中の熱気がピッチの上を漂う。その中を大音響の音楽と大歓声が響き渡り、選手入場口からセブンズ日本代表チームが対戦相手と共にフィールドに現れた。

 この場所で、1年後の7月27日から8月1日まで東京オリンピックの7人制ラグビー競技が開催される。前半の3日が男子、後半の3日が女子の大会だ。その本大会で、メダルのかかった試合は男子も女子も3日目の夕方からになる。

女子と男子のセブンズ日本代表チームは3日間に及ぶ本大会の最終日を想定して、この日、試合会場でそれぞれ7分ハーフ3本の練習試合を行った。

日頃は経験することが少ない大音響大歓声を想定して、無人のスタンドながら音楽と歓声を大音量で流す。その中で、チームメイトやベンチからの指示も聞こえない中でのプレーを確認。女子は試合冒頭に国歌斉唱も行い、男子大学生チームと対戦。男子も大学生を中心とした混成チームと対戦し、3本目の冒頭で国歌を聞いた。

暑さ対策として、待機中の保冷剤を仕込んだベストの着用や冷やしタオルなども活用。試合へのウォームアップ終了後に雷やゲリラ豪雨に見舞われた状況や、移動で交通渋滞に巻き込まれた設定を用意して、選手の対応を促した。

また、3日間それぞれ午前午後に行われる試合スケジュールに合わせて、時間の流れや過ごし方を確認。1試合が終わった後にリラックスして、再び午後の試合に備えるというメンタル面も含めた調整を体験した。

メダルを獲るために

 セブンズ男子代表を率いる岩渕健輔ヘッドコーチは、「五輪で起こるだろうということを想定しながら、選手にいろいろなストレスをかけながらやってきた」と話し、選手は良い意味でその状況に対応してくれたので、そこはすごくよかったと思う」と語った。

 男子チーム指揮官は、3本の練習試合では準決勝で負けて銅メダルマッチに勝ったという流れだったと明かし、「メダルを獲るためにやっている。本番では決勝に行って国歌を2回聴いて終われるようにしたい」とイメージを膨らませていた。

 15人制で2015年ラグビーワールドカップも出場した藤田慶和選手(パナソニック)は、今回のリハーサルを経験して「暑さや会場の雰囲気も分かったので、ホームということを最大に活かして1年後に戦いたい」と話した。

前回のリオデジャネイロ・オリンピックではバックアップメンバーに回り、大会出場はならなかったことから、25歳の俊足ウィングは「五輪への思いは人一倍強いし、負けたくないが、まずは1つ1つを大切に積み上げていきたい」と語った。

一方、女子セブンズ日本代表の中村知春選手は、「1年前のこの時期に試合会場でこういう経験ができたのは私たちだけ。アドバンテージだと思う」と語る。

大音響の中での試合には慣れるまで時間がかかったというが、「今回やってみて、こんな感じかと分かった。より危機感を持って臨める」と話した。

女子代表チームの稲田仁ヘッドコーチは、「3日間のサイクルは今までやっていないので、そこへ向けての準備もしなければならない。疲労蓄積とリカバリーがポイントになると思う」と話し、「満員の観客の中で正確な判断をするのは、体だけを鍛えても難しい。心や頭も鍛えて、総合的に磨いていきたい」と語り、今回のリハーサルを経て、強化のチェックポイントを再確認していた。

女子はユニバーシアードで積み上げ

 大学生も多い女子チームは、この合宿前にも、本番につながる経験を積んだ。

イタリアのナポリで行われたユニバーシアード夏季競技大会に出場し、金メダルを獲得。大学生中心の大会でオリンピックとは競技レベルに違いがあるとはいえ、オリンピックと同じ総合競技大会。しかも、ヨーロッパが稀にみる熱波に見舞われた中での3日間の大会で、暑さの中での実戦や選手村での生活も体験した。

今大会でチーム主将を務めた平野優芽選手(日本体育大学)は、「勝ち癖を付けることができた」と話し、HSBCワールドラグビー女子セブンズシリーズでの黒星続きの状況からイメージをリフレッシュできたことを収穫に挙げた。

「体の小さい選手でもいろいろな個性を出すことで、ここまでの結果を出せると分かった。ユニバーシアードで金を獲れたことはすごく自信になった」と話したが、「私たちの最終目標は五輪で金メダルを獲ること。今回の結果に満足することなく、でも自信を持ちながら、まだまだ頑張らなくてはいけない」と気を引き締めていた。

永田花菜選手(日本体育大学)は、「国際大会の経験が少ないので、東京2020に向けて自分が成長するにはここしかないと思っていた」と話し、「自分に足りないものも分かった。ここで国際大会を経験できたのはすごくよかった」と振り返った。4トライ9コンバージョンを決めてチームの勝利に貢献。大会後、五輪候補の予備軍の1人にも名を連ねた。

「若いリーダーが成長した」と振り返った稲田ヘッドコーチは、「ここで一つ結果が出たことで、これをエネルギーにして進んでいくことができる」と話す。

さらに、各選手の所属クラブが出る国内リーグの充実と代表チームで出場する国際大会での強化の重要性に触れて、「代表強化と国内リーグのレベルアップの両面をやっていくことで底上げになり、オリンピックへの結果にもつながっていくと思う」と語った。

「次」への足掛かり

 男子も女子とともにユニバーシアードでは金メダルを獲得。セブンズ男子日本代表でコーチを務め、今回の若手チームを率いた鈴木貴士ヘッドコーチは、「もともとラグビースキルの高い選手が集まっている。セブンズの理解度を含め、体力、反応、動き出しなど、すごく成長した」と話し、「(代表の)トップチームにはすごく良い刺激になったと思う。このチームからどんどん上に行って、上でしっかり活躍してもらえれば」と、選手の台頭を期待している。

 チームの共同キャプテンを務めた仁熊秀斗選手(筑波大学)は、「低いタックルや走り勝つことは日本の方が良かった。練習してきたことを出せてよかった」と手応えを口にしながら、「ユニバーシアードが僕らの目標ではない。五輪でしっかりメダルを獲れるように、このメンバーの中から1人でも多く上へ行けるように、これからもがんばっていきたい」と力強く語った。

 川崎清純選手(関東学院大学)は190センチ、102キロの大柄ながら俊足の持ち主。15-12で勝利した決勝の南アフリカ戦での収穫を口にする。

「南アフリカはサイズもスピードもあって、ワールドシリーズに出ていた選手も多くて全然違ったが、自分より大きい選手もいっぱいいた中で勝負できたのは大きい」と話す。

東京五輪へ欲も出そうだが、「自分たちはパリオリンピックを目指して強化してもらっているので、それに合わせて行けたら。今回、走りは良かったが、起き上がりに時間がかかるので克服したい」と課題を口にした。「まずは今年のアジアシリーズに選ばれるように頑張りたい」。

同年代での国際大会で得た自信を足掛かりに、次のステップへ踏み出す決意を固めたようだった。