大仕事の前のリセットと言うべきか。

「ワールドカップのことは常に頭にある」というリーチ主将が、この年末には母の出身地であるフィジーへ家族とともに出かけ、電気もガスもない自然の中での生活を送り、その後は生まれ育ったニュージーランドへ渡った。2004年に札幌山の手高校へ留学生として来日して以来、14年ぶりにニューイヤーを生まれ故郷で迎えた。

 リーチ選手は「ラグビーという競技はパッションがとても大事」と話し、精神的な要素がゲームに大きく影響すると考えるだけに、日本開催のラグビーワールドカップでの成功を期して「原点に戻るのは大事」と考えたという。そこには日本代表キャプテンとしての意欲や責任感がにじむ。

 リーチ選手が代表キャプテンを務めるのは、2015年イングランド大会に続いて今大会で2大会目。チームは前回大会では優勝経験のある南アフリカを初戦で撃破して世界の注目を集め、プールで3勝を挙げながらもベスト8入りを逃した。その大会後、2019年大会へ向けて指揮官も選手も入れ替わり、新たな体制で悲願の8強入りを目指している。

昨年12月に発表された日本代表のワールドカップ第3次トレーニングスコッドと称する大会メンバー候補リストにはFW23人とBK15人が名を連ね、そのうちイングランド大会の経験者は11人。大会までに代表資格を獲得する見込みの外国籍選手も6人を数える。

いずれも日本のトップリーグでプレー経験を経てきており、南アフリカ出身のLOピーター・ラブスカフニ選手(クボタ)やLOグラント・ハッティング選手(神戸製鋼)、オーストラリア出身のFLベン・ガンター選手(パナソニック)らの名前が並ぶ。すでに代表キャップを取得している中にはニュージーランド、フィジー、トンガ出身者がいて、顔ぶれは多彩だ。

だが、リーチ主将にチームをまとめる不安はない。

「今はそんなに大変なことはない。2015年の大会が大変だったが、それがいい経験になっている」と指摘。「チームカルチャーがすでに確立されていて、新たに加わる選手たちはそれに合わせればいいだけ。ただ、何のために代表でやるのかだけは、はっきりさせる」と日本代表主将は言う。

 しかも、2015年を経験した選手たちから「勝つための準備とノウハウ」を得ている。「試合までの1週間に何を大事にしなくて準備をすべきか、そこは前回の代表チームから来ている」という。

プレー面でも同様に、前回大会から活かせるものは今回のチームに取り入れたい。

ボールを持ち続けて攻める手法は2015年大会に使ったスタイルだが、キックを多用する現在のチームにそれを加えることで、「ゲームのオプションを増やそう」と考えており、その手応えはイタリアとのテストマッチ第2戦で掴んだ。

リーチ選手は、「イタリアに負けた試合でも、蹴らずにアタックしようとしたらうまく行った。ボールを持ってアタックすることが、今の代表チームにプラスになっている」と語る。

 昨年11月に対戦して31-69で敗れたニュージーランド代表戦からも、課題を手にした。「切り替えの速さがまだ足りない。上に行くほど、その大事さを感じる。オールブラックス戦でのミスを見ると、相手の動き出しが早く、日本は2,3歩遅れている。そこを日本が世界一にしないといけない」とリーチ選手は指摘し、改善には予測が重要になると語った。

 

精神性を高める

 日本大会への具体的なイメージも徐々に膨らんできている。

 9月20日の大会開幕戦で日本が対戦するロシアとは、昨年11月のイングランド遠征で対戦し、日本が32-27で勝った。だが、リーチ主将は改めて精神的な影響を懸念する。

「勝てるだろうと思ったら絶対に負ける。特に潜在意識でそう思っていることが一番怖い。相手をリスペクトして、大きな仕事だということを、チームで常に厳しく言わないとならない」と気持ちの引き締めが必要と語る。

精神性を高めるために、武士道や武士の戦闘ツールである刀や鎧などにも興味を抱き、本を読み、その考え方を理解して、自身のプレーに活かそうとしている。

日本はロシアとの初戦後、アイルランド、サモア、スコットランドと対戦する。世界ランキングではそれぞれ2位、16位、7位。ロシアは19位で日本は11位だ。

リーチ主将は「アイルランドは世界一に近い。ミスしないFW,素晴らしいSOがいて優勝を狙えるチーム。スコットランドも同様にFWにはミスがなく、BKは大きい。サモアは大きくてパワーがあって1発でトライを獲る能力がある」と警戒を怠らない。

 日本代表は大会へ向けた調整として、7月のパシフィック・ネーションズカップに参戦し、フィジー(世界ランク8位)、トンガ(14位)、アメリカ(12位)と対戦する。フィジー戦は7月27日の初戦でワールドカップ試合会場の一つである、岩手県釜石市の鵜住居復興スタジアムで行われる。その後、大会直前の9月6日には南アフリカ代表(5位)とテストマッチを行うことが決まっている。

 リーチ主将は、南アフリカ戦について「トップレベルの相手とやれるのはいいこと。南アフリカはとても強い。おそらく、オールブラックスとやるよりも難しい」と分析。「勝ち方、負け方によるが、結果がどうであれ、この試合で大会前に自信をつけたい」と話している。

 2015年大会以降、日本は日本代表予備軍としてサンウルブズを形成して、スーパーラグビーに参戦してきた。2019年シーズンも、サンウルブズでの強化が日本代表の強化につながるとして、重要な位置にある。

サンウルブズは1月の合宿で始動するが、リーチ選手の合流は暫く先になるという。2011年の代表デビューから今日までにテストキャップ59を保持する30歳FWは、他の日本代表メンバーとともに、それぞれのコンディションに合わせて合流する。これも、9月開幕のワールドカップを睨んでの代表チームとしての調整の一環だ。

 「僕の一番の仕事は強いチームを作って勝つこと。ワールドカップで勝つためにはキャプテンが一番強くならないといけないから、勉強して強くなりたい」とリーチ主将は言う。

「ラグビーは格闘技に近い。勇気あるプレー、覚悟を決めてやっている23人の強い日本代表を見せたい。1試合1試合取り組んで、毎試合に勝って行く。そしてベスト8以上に行きたい」と力強く語った。