強豪の南アフリカを劇的な逆転の末に破り、これまで分の悪かったサモア戦にも勝ってワールドカップ(W杯)で初めて1大会2勝を挙げた日本代表。最終戦の米国戦で勝てば大会前には想像もできなかった4戦して3勝を手にすることも夢ではなくなっている。

4年間率いた代表チームを躍進させ、日本ラグビーの歴史を塗り替えたエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)が8日、ラグビー・ニュース・サービスの単独インタビューに答え「日本に帰ってくることはいつでも視野に入れている」と日本での現場復帰の可能性を示唆。その上で「今の日本のままでは駄目だ。現状維持だけで2019年W杯で準決勝へ進出できると思ったら甘い」と厳しく指摘した。

最終戦を残した8日の段階で準々決勝進出の可能性を残しているものの、ジョーンズHCはその日本代表を離れて世界最高峰リーグ「スーパーラグビー」の南アフリカチーム、ストーマーズで監督に就任することが決定している。

「日本での4年間で私は変化を起こせたと思う」

「トップ8に入ること、そして注目のチームになること」の2つを大会前のテーマに掲げていたジョーンズHC。その言葉通り、トップ8は手の届く位置にまで近づき、南アフリカとの激闘で世界のラグビーファンの心を奪って一躍、大会の人気チームとなった。目標はほぼ達成できたといっていい。

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「南アフリカを破った試合がこれからも歴史的に最も大きな試合になるだろう」と言う。その大一番で勝利の決め手となったのは、W杯トップチームの一員だったからこそ分かる価値観、自身のW杯での経験、そして作戦だったという。「(南アは)W杯で自己最低の成績が準決勝進出というチーム。ピークを10月中旬に持ってくる。9月ではないのだ。そういうチームは、試合序盤にうまくつかまえて考えさせることができたら勝つチャンスが生まれる。その形に私が導いただけ。その時に、日本が勝ち切るだけの力を持っていたのだ」と奇跡の勝利の裏側を明かした。

「日本で2500万人がラグビーの試合(サモア戦)を観戦した。聞いたことがない。ラグビーは日本ではメジャーなスポーツじゃないのに、それがこんな大きなムーブメントを巻き起こしたんだからね」

 

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ただし、ジョーンズHCは快挙に湧く日本のラグビー界に警鐘を鳴らすことも忘れない。今大会の日本代表の活躍に甘んじていては、日本のラグビー界の未来は明るくないと厳しく指摘する。今大会の好成績は、キャリアを積んだ「今後も出会えないかもしれないほどのタレントが集まったチーム」のおかげと言い切った。その上で「もし日本が今以上にレベルアップしたいなら、現状維持では駄目だ。私が退任することを決めた理由もそこにある。今のままで19年大会の準決勝にいけると思っているなら、クレージーとしかいえない。絶対にありえないことだ」と世界のレベルがそれほど甘くないことを重ねて強調した。

現時点で世界ランク10位前後の日本。トップ8入りには大きなステップアップが必要で、まして7位から6位に上がるにはウェールズ級のチームに常勝するチームでなければならないという。「日本にそういうタレントはいない。6フィート6インチ(約198㌢)の本当に強靱なロックが何人いる?誰もいない。現実的に日本が進化するためには、さまざまな面で大きな変革が必要なのだ」

南アのストーマーズとの契約は3年とされている。その後の去就についても口を開き「日本復帰はいつも選択肢の一つ。日本のラグビーは私の人生で大きな部分を占めている。日本人の母、そして妻を持ち、日本のチームにも強いつながりを感じている。日本でのコーチ人生は私のキャリアで一番喜びを感じた期間だ。だから、復帰は考えている」と改めて日本へのひとかたならぬ思いを語ったが「他にもやりたいことがいくつかある。南アフリカで監督をすることもそうだし、フランスで指揮を取るチャンスがあるなら挑戦してみたい」と新たなキャリアを選んだ理由をそんな表現で説明した。

日本で開催される19年W杯での復帰について問うと全面的な否定はしなかったが、日本ラグビー界が大きく変わる必要があると示唆。「もし、日本の勝利のために自分が何かを変えることができるならば」と述べるにとどめた。また、イングランドの次期監督候補との報道もあったが「イングランドでは指導経験があるので、また戻る気はない」として可能性を否定。現在興味があるのはフランス代表であると明かした。ジョーンズHCは「気持ちを沸き立たせることができるかどうかで仕事を選んでいる。本当なんだ。私は勝ちたいんだ。自分で何かを変えられる場所でだけ監督をやりたい。フランスでは外国人監督が成功した例があまりない。フランスは日本と同じように、自分たちの流儀でしか物事をやりたがらない。だからこそ興奮するね」と熱い胸の内を静かな口調で語り続けた。

現実味は薄いが、日本が準々決勝に進めば18日にジョーンズHCの母国、オーストラリアと対戦する可能性もある。「実現したら楽しみでしかない。何も失うものはない。もしその舞台に到達できて負けたとしても、不思議でもなんでもない。彼らは世界最高峰のチーム。しかし、ボールがどう弾むか分からないように、何が起こるかなんて、その日にならなければ分からないよ」とこの時ばかりは目を細めて話した。

RNS sk/co/yk/kf