齊藤聖奈選手は2度のラグビーワールドカップを含めて代表キャップ40を誇る、女子日本代表屈指の頼れるバックローだ。2019年に始まったレスリー・マッケンジー女子日本代表ヘッドコーチ体制では、攻守にわたってチームを支える存在だ。2019年11月にはバーバリアンズにも選出された。2023年の女子日本代表は秋のWXVを含めた9戦を7勝2敗の成績で終えたが、31歳FWの貢献度は高い。

その齊藤選手が、ニュージーランドのスーパーラグビーAUPIKIのチーフス・マナワで2024シーズンを戦うことになった。ニュージーランドでの生活は、大学卒業後に半年間クライストチャーチに留学して以来となる。

チーフスはスーパーラグビーAUPIKIで2022年に初代王者に輝いたが、昨年は準優勝。2年ぶりの優勝を目指す2024シーズンは、3月2日のハリケーンズ戦を皮切りに4月6日までレギュラーシーズンを戦う。上位2位に入れば、その一週間後に優勝決定戦に臨むことになる。

齊藤選手のチーフス加入のきっかけは、2022年秋にニュージーランドで行われたラグビーワールドカップだった。所属のパールズで以前ヘッドコーチとアシスタントコーチを務めたクリスタルとブレントのカウア夫妻が現地で日本戦を観戦。その後、齊藤選手と再会した折にチーフス入りを勧められたという。クリスタル・カウアはチーフスのヘッドコーチを務めている。

「憧れの舞台でしたが、アジア人や日本人が選ばれるのは難しいと思っていたので、ビックリしました」と、日本人初の挑戦に挑む齊藤選手は言う。彼女が「最初は冗談だと思っていた」という話は進んだ。

現在、チーフスの公式サイトの2024シーズンの選手一覧に齊藤選手の名前があり、登録はフッカー。バックローがメインの齊藤選手にとっては新たな挑戦だが、「6番7番8番だけでなく、フッカーのカバーもと言われている」と明かす。かつてパールズで齊藤選手を見ていたカウアヘッドコーチならではの抜擢だろう。齊藤選手はラインアウトなど新しいポジションの動きを練習中だ。

「憧れの舞台でチャレンジできることは本当にうれしい。(ニュージーランド代表)ブラックファーンズの選手もたくさん所属しているので、スキル面などいろいろ学べるのも楽しみ。でも同時に緊張もあります」と言う。

 

自分の成長を確かめる

今回の挑戦は齋藤選手にとっては、2022年秋からの自分自身の成長を確かめる場となる。

ワールドカップ直前の2022年9月末、イーデンバークでのテストマッチでは日本はニュージーランドと対戦し、齊藤選手は前半終了直前にチーム1本目のトライを決めたが、チームは12-95で大敗した。

「フィジカルの差を歴然と感じたあの時から、フィジカルとスキルの差をどこまで詰められているのか。どこまで自分ができているのか、チャレンジしたい」と意気込んでいる。

次のワールドカップへ向けて動き始めた2023年、日本代表は新設されたWXV2に参戦。サモアには32-10で勝利したものの、イタリアとスコットランドにはそれぞれ15-28、7-38で敗れて1勝2敗に終わった。だが、齊藤選手は戦績以上に手ごたえを得ているようだ。

「イタリアとスコットランドには、シックスネーションズで経験値を重ねている国はすごいなと感じましたが、それでも徐々に経験値は詰めてきていると思います。気づくか気づかないかという小さな部分や、プレーの予測や視野を広げるところなどがジャパンには少し足りなかったかと思います」と齊藤選手は言う。

「イタリア戦は個人としてもあまりいいパフォーマンスを出せずにすごく悔しい試合で、その中でもっと学びたい、成長したいという気持ちがすごく芽生えました」と振り返り、飽くことのない探求心を自覚。「(力の)拮抗した国と拮抗した戦いになったときに、何を自分たちの強みにして勝てるのか。この1年、みんなで探りながらやっていきたい」と語る。

 

15人制にフォーカス

日本ではセブンズが主流で、15人制の活動は期間も大会も限られているのが実情だ。その中で齊藤選手は、7人制には2023年で区切りをつけ、2024年以降は15人制に集中すると宣言。自身のチーフス参戦で新たな道が開くことも願っている。

「日本では15人制のシーズンは短くて試合回数も少ないですが、代表ヘッドコーチがレスリーに代わって、テストマッチや海外遠征の機会が増えて、1年の3分の2を15人制にフォーカスできるようになってきました。自分はその残りの3分の1をニュージーランドで過ごすことで、また一つ、経験値を上げられるのではないかと思っています」と話す。

「これから日本の女子ラグビーの選手たちがスーパーラグビーに入って来れるかも、自分がいいパフォーマンスをできるか次第だと思うので、プレッシャーを感じながら、次へバトンを渡せたらと思っています」と語った。

新たな挑戦を前に、齋藤選手は昨年12月に女子ラグビー関西大会7連覇を達成したパールズで1月21日に始まる全国女子選手権大会に臨み、勝利で2月3日の決勝進出と全国制覇を目指す。

幼い頃、兄の影響で始めたラグビー。中学時代に一度離れたが、1年で戻ってきてからは離れることはない。

「現在31歳で、今ここでチャレンジさせてもらえることに本当に感謝している。これだけラグビーを長くやってきていて、まだまだ新しい挑戦や新鮮なことを、いろいろと見つけられているので、ラグビーは奥深いと思います。2024年も、新しいことをたくさん学べそうな予感がするので、楽しみです」

2024年、齊藤選手の新たな一面を見られそうだ。