今回の遠征初戦でアイルランドに大敗し、ポルトガルに辛勝して迎えたスコットランド戦で、日本は今回の遠征での苦戦の要因となっていたペナルティの多さを改善。ボールを保持して速いテンポのパスを回して仕掛ける攻撃で、試合開始早々には18フェーズを重ねるなど相手ゴールに迫る接戦を演じた。
世界ランキング7位のスコットランドは、前半6分にラインアウトからFWで押し込んでWTBドゥハン・ファンデルメルヴァ選手がトライを決め、28分にはFBスチュアート・ホッグ選手、ハーフタイム直前にはWTBダーシー・グレアム選手が5点ずつを加えて19-6とリード。ホッグ選手はこれが代表最多記録となる25トライ目となり、マレーフィールドに集まった6万人の観衆の大歓声を受けた。
しかし、世界ランキング10位の日本はハーフタイム後に反撃。スコットランドはPRジェイミー・バティ選手への後半3分のイエローカードなどペナルティが続き、前半2本のPGを決めているSO松田力也選手がさらに2本のPGを決めて12-19に点差を詰めた。
その後、スコットランドに1トライ1コンバージョンを許して26-12と再びリードを広げられたが、日本は後半22分にSO田村優選手やNO8テビタ・タタフ選手、PR稲垣啓太選手ら4人をベンチから送り出して攻勢を維持。直後にはCTB中村亮土選手の50:22キックで得たラインアウトを起点に、タタフ選手がゴール前のラックから力強く持ち込んで5点を返した。
さらに日本は落ちない運動量と勢いで相手を押し込み、後半32分に松田選手がPGを成功させて20-26と6点差に迫ったが、試合終了直前に自陣でのペナルティでスコットランドにPGを与え、最後に突き放された。
2019年ラグビーワールドカップのプール最終戦で日本に敗れて大会敗退となったスコットランドが、雪辱を果たした。
アウェイでの戦い
日本代表FLリーチマイケル選手は、6万人を超える相手サポーターで埋まったマレーフィールドでの戦いを振り返って、「アウェイで戦う難しさがあった。全体的にプレッシャーを感じた。アイルランド戦からチームの成長はできているが、アウェイでどう勝つか。今後もっと真剣に考えないといけない。相手も簡単には折れない」と指摘した。
一方、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたスコットランドのCTBクリス・ハリス選手は、「先週も今日もベストなラグビーではなかったので、とても複雑な心境だ。愚かなミスで多くのペナルティやトライを許してしまった」と話し、最後の20分間の攻防についても「自分たちで日本に隙を与えてしまった。日本は全く落ちる様子がなく、素晴らしかった。こちらがミスをすればすぐにそれを活かしていた」と振り返った。
スコットランドの反則は日本の9に対して11だった。
スコットランドのグレガー・タウンゼンド監督も、「日本のことはとてもリスペクトしている。世界でもベストチームの1つで、2年前もそうだ。我々はベストなラグビーをしようという強い決意で臨んだが、日本のポゼッションが良くてなかなか思うようにはいかなかった」と話した。チームはホームで戦った秋のシリーズを3勝1敗で終了した。
ポジティブな要素
勝利へあと一歩及ばなかった日本だが、反則数は10月23日のオーストラリア戦と遠征初戦のアイルランド戦でいずれも13、ポルトガル戦で15と2桁が続いていたが、この試合では9と1桁に削減。相手への圧力で相手の反則を誘う場面もみられるようになった。
キャプテンを務めた日本代表FLピーター・ラブスカフニ選手は、「最初の1分からどちらに転んでもおかしくないような接戦だった。相手はプレッシャーをかけてきたが、僕らもいいラグビーをしたと思う。ペナルティはあったが、ポジティブなラグビーをした。ここから学んで改善できればいい」と話した。
この日の試合を含めて秋のシリーズ4試合中3試合でSOを務めた松田選手は、多くの出場時間を得て「収穫の多いツアーになった」と振り返ったが、後半のタタフ選手のトライ後のコンバージョンのミスを「決めていればもっと相手にプレッシャーをかけることができた」と反省。「また10番として試合に出続けられるように、もっと自分自身の能力を上げられるように満足せずにやっていきたい」と話した。
タフな実戦の重要性
2019年ワールドカップ日本大会で8強入りした日本は、翌2020年はコロナ禍の影響を受けてテストマッチを行えず、今年に入って実施できたテストマッチは夏の2戦を含めて、この日のスコットランド戦が6戦目だった。
ジョセフヘッドコーチは、「日本らしいアタックをして、相手にプレッシャーをかけることができたが、所々で細かいミスからペナルティをしてプレッシャーが削がれ、相手にチャンスを渡してしまった。それは、なくしていかなければならない」と指摘したが、チームの改善ぶりは評価している。
「ワールドカップからほとんどプレーしていない状態でマレーフィールドに来てスコットランドと、このレベルの戦いをしたことは、とても注目すべき素晴らしいことだ。日本らしいアタックをして、相手にプレッシャーをかけることができた。チームが後半に見せたキャラクターの強さは収穫だ。この経験を活かして、ここから多くのことを教訓にして、もっと多くのことを改善していかなくてはならない」と語る。
チームの守備についても日本代表指揮官は、「全体的には満足」としつつ、セットピースでは簡単に得点を許しているとして改善点に挙げた。
また、今秋のテストシリーズ中にはCTB中野将伍選手、FLベン・ガンター選手、CTBディラン・ライリー選手、LO/FLワーナー・ディアンズ選手らが代表デビューを遂げ、夏の遠征で初キャップを獲得したLOジャック・コーネルセン選手、SH齋藤直人選手、WTBシオサイア・フィフィタ選手らもキャップを重ねた。
ジョセフヘッドコーチは若手について、「チームにとって非常にポジティブだ。(国内の)トップリーグしか経験のない若手が、このレベルでプレーすることはとても大きなチャレンジだ。これから良くなっていく。将来へとても素晴らしい経験になったと思う」と手ごたえを口にした。
日本代表指揮官は2023年フランス大会へ向けて、2つの取り組みを重要ポイントに挙げている。一つは若手の育成と成長。もう一つが、2019年大会へ向けて参戦していたスーパーラグビーに代わる、厳しい実戦環境の確保だ。
「勝利に魔法のレシピはない。必要なのはハードワークだ。異なるレベルの相手とプレーして勝つことは選手にとっては大きなチャレンジで、過去には長い期間をかけてこのレベルで自分たちのラグビーができるように準備してきた。そこは優先的にフォーカスを当ててやっていきたい」とジョセフヘッドコーチは言う。
来年1月にはこれまでのトップリーグに代わって、新たに「リーグワン」が発足する。
「選手たちが日本に戻って国内リーグで成長することが重要になる。これからの2年間を楽しみにしている」と指揮官は言った。