新型コロナウィルス感染の世界的流行で今春以降さまざまなスポーツが活動休止を余儀なくされた。昨年秋の欧州遠征でイタリアと引き分け、スコットランドに勝利して、マッケンジー女子日本代表ヘッドコーチの下で強化の成果を見せ始めていたサクラフィフティーンも、例外ではなかった。

来年ニュージーランドで開催されるラグビーワールドカップ2021への出場権をかけたアジア予選は日本にとっては直近のクリアすべきターゲット。だが、当初3月中旬に行われる予定だった予選大会は感染拡大を受けて延期され、チームも政府の緊急事態宣言を受けて活動休止となった。

 女子日本代表チームが再び動き出したのは7月27日。招集した選手をフォワードとバックスのポジション別に2グループに分けて、前後半でそれぞれ4日間の合宿をリモート形式で実施した。3月上旬の合宿以来約4カ月ぶりの活動だった。

 「ワールドカップは1年後。昨年11月のイタリア、スコットランドとのテストを受けて、我々にはモメンタムがある。それを活かすのは自分たち次第」とマッケンジーヘッドコーチ。「待機してばかりではいられない。自分たちで準備を加速させていかなければならない」と語る。

今回の合宿は、オンラインながらサーキットトレーニングなど体を動かす要素も取り入れたが、仲間とのディスカッションや考えることがメインというブレインストーミング。提示された試合中のある状況やフィールド内外のテーマについて、選手が考えて答えを導き出すという作業が多く用意された。

考えて深める理解

マッケンジーヘッドコーチ曰く、「かなりチャレンジング」という内容で、やり取りを通じて互いの理解や関係性、そしてゲーム理解を深めるのが狙いだ。オンラインというツールを介しているため、体を使う部分と頭を使う部分や、オンとオフのバランスに気を配りながら実施した。

「試合中に話をするのはフィールドにいる15人の選手。みんなが自分の発言に自信をもっていなければならない」と指揮官は説明し、試合のマネジメントや判断力アップにつながることを期待する。

「実技の練習に追われる通常の合宿ではできなかった。選手の反応はすごく良くて、選手みんなに感心させられた」とマッケンジーヘッドコーチは笑顔を見せた。

 すでに変化が見られる側面もあり、これまでは激しいプレーはするが発言はあまりなかった選手が、今回のリモート合宿では積極的に議論をリードするなど、新たな一面も見せるようになったという。リモートならではの特性を活かした効果だろう。

 その下地作りの一環となったものが今年5月の自粛期間中にあった。

2019年1月からチームを率いるマッケンジーヘッドコーチは、これまでに合宿に招集した選手約70人との1対1でのミーティングを実施。現在の立ち位置、チームの目指すところ、そのために成すべきことなどを説明する一方で、選手1人ひとりから質問に答える時間を設けた。多い時には、1日に10人の選手と対話を重ねて5時間ほどオンライン画面に釘付けになっていたという。「とても有意義で、実施した甲斐はあった」と言う。

 ちなみに、緊急事態宣言の中、自身の家族が暮らすカナダに戻ることは「考えもしなかった」そうで、「一度(日本を)出たら、次にいつ戻って来られるか保証もない。ここには私の選手たちがいる。ここが私の家だから」と話した。

 

成長と伝統的な良さ

 マッケンジー女子日本代表ヘッドコーチは、昨年末の時点でプレー面でも選手の成長を感じていた。

 女子日本代表は、昨年7月の遠征でオーストラリアとテストマッチ2連戦を実施。マッケンジーヘッドコーチにとっては就任後初の対外試合だったが、第1戦5-34、第2戦3-46の黒星だった。

だが、4か月後の11月に行った欧州遠征では結果を得る。11月16日のイタリア戦を17-17のドローを演じ、その翌週24日には再び敵地でスコットランドに24-20と勝利した。

さらにその直後には、日本代表の南早紀選手と斉藤聖奈選手のFW2人がバーバリアンズへ招集され、女子日本代表史上初のグッドニュースも付いてきた。日本代表の成長を示唆していると言えるだろう。

 チームは順調な伸びを見せ、元カナダ代表FWの指揮官は「コンタクトプレーと判断力」をチームの成長要素に挙げた。

特にコンタクトプレーについては、コンタクトの少ないセブンズ出身選手もいるなど選手のプレー経験にばらつきがある中で、「スコットランドやイタリアとの戦いぶりを見ても、自分たちの強みにしたいと思えるほどだった。来年のワールドカップでは自分たちの特技としてプロフィールに加えたい」と言うほどの好感触を得ている。

 判断力についても指揮官は、「試合の勢いを左右する重要な部分。素早く正しい判断を自分たちで行えるようにしたい。簡単ではないが、選手たちも意欲的に取り組んでいて、実際にとてもよくやっている」と評価する。

さらに、この2つの要素が伸びることで形づくられるチームの全体像も、マッケンジーヘッドコーチには見えている。

「この2つの要素を、日本の伝統的な良さである高いレベルのスキルやフィットネス、強い成功意欲と組み合わせることができれば、非常に良いものになる。選手たちが切磋琢磨してワールドカップへ向けて伸ばしていきたい。」

 

アジア予選とRWC2021

成長を示す女子日本代表にとって、2021ワールドカップ・アジア予選はチームが追及するプレーの完成度を測るチェックポイントになると見られている。

だが、アジア予選開催の見通しは、まだ立っていない。

アジア予選では日本、カザフスタン、香港の3チームが総当たりで対戦し、優勝チームが本大会の出場権を獲得し、2位チームが敗者復活戦に出場する予定になっている。

この予選大会が当初は3月14日から22日までの期間で香港にて開催される予定だった。ところが、新型コロナウィルス感染流行を受けて5月8日から16日に変更され、その後も感染収束が見られないために再び延期。そして、8月に入ってアジアラグビーは年内の開催を見送る決定をした。

マッケンジー日本代表ヘッドコーチは、「予選が先送りになったことで、さらに準備に時間を割くことができる」と受け止め、「香港もカザフスタンもそんなに試合をしないので得られる情報は多くないが、私たちはまず、自分たちのゲームをするための準備をしなくてはならない」と説く。

9月以降、月に1回のペースで選手を集めて合宿を行ってレベルアップを図る意向を示す。そして、国内のシーズンが動き出すことが重要だと指摘する。選手たちが日常的にプレーできる場を確保は、代表チーム強化の土台となる。

 一方で、アジア予選が年明けの2021年に持ち越されたことで、予選突破後に9月18日に始まる本大会までの準備期間は、かなり限られることになった。

 「予選突破して、レビューのどのぐらいを本大会へ活かせるか。そこからは残された時間の使い方がすごく重要になるし、私たちにとって大きな挑戦になる」と日本代表指揮官は言う。そして、こう続けた。

「でも私は大きなチャレンジが好き。この1年半の間と、オーストラリア、イタリア、スコットランドとのテストマッチで得た要素がある。それをワールドカップで示せるようにしたい。まずは予選を確実に突破したい。来年をすごく楽しみにしている。」