ウィルチェアラグビーの日本代表は、2016年のリオデジャネイロ・パラリンピックで銅メダルを獲得し、2018年のウィルチェアラグビー世界選手権で優勝して世界の頂点に立った。好調の波に乗り、今年の8月に予定されていた東京パラリンピックへ臨みたいところだったが、年明けに発生した新型コロナウィルス感染症の世界的拡大で、大会は1年後の2021年8月に延期された。

 日本代表の池透暢主将は、「今年8月に開催されていれば、過去最高の自分でいられた自信はあった」というものの、延期を悲しむ様子はない。中止ではなかったことで「すごく救われた」と話し、最強化への準備に活かすつもりだ。

「日本が金メダルを獲るために、いろいろなものを犠牲にして、この競技に思いをぶつけてきた。延期で、まだ先があることがうれしかった」と、2014年から主将としてチームを引っ張る40歳は言う。

 「自分たちが世界一だと認められるには、やはり、パラリンピックでの金メダルを獲ることだと思う。そこへの思いは、揺るぎない自分のモチベーションになっている。それを達成することで、応援してくれた方々が認められる、喜んでもらえる」と、パラリンピックへの思いを話した。

 だが、コロナ禍で日本代表チームの大会参加や練習に影響も生じているのも事実だ。3月に日本で予定されていたジャパンパラ競技大会や6月のカナダカップは中止となった。11月にアメリカで大会が予定されているが、実施の判断は9月半ばまで分からない。

練習も2月の合宿以降、7月中旬に合宿を実施するまで、チームとして集まることはできなかった。しかも、その合宿再開では感染リスクなどを考慮して、遠方在住者を除いた関東在住者11人の参加に限定され、チームを率いるケビン・オアーヘッドコーチは渡航制限を受けて、自宅のあるアメリカ・アラバマ州からのリモート参加だった。

延期は日本にプラス

制約の多い中、試行錯誤で来年の大会への準備が進められているが、オアーヘッドコーチは悪くない感触を得ている。

 「延期は日本にとって基本的にはプラスだ。多くの国で代表チームが活動できていない中、日本は彼らに先んじてコートで動くことができている。これは我々のアドバンテージだ」とオアーヘッドコーチは言う。

選手たちにも「我々は1年の猶予を与えられた。過去やできなかったことにとらわれてネガティブになるのではなく、できることを捉えてポジティブでいよう」と語りかけたという。

 東京で約1週間行った7月合宿は、約5カ月ぶりの集合だったが、自粛期間中にもそれぞれで筋トレを中心に体を動かしていた選手たちは「想像以上にコンディションが良かった」とオアーヘッドコーチ。選手たちからの要望もあって、「1日半過ぎたところから、感染防止対策をとりながら、通常合宿でやっているような戦術練習を多く取り入れた」と明かした。

 この合宿に参加した今井友明選手も、「リモートの画面いっぱいに映し出されるケビンの姿がいつもより大きくて、ちょっと怖かった」と笑うが、「チームの雰囲気も良くて、いい合宿だった」と振り返った。

 しかも、新型コロナウィルス感染拡大で自粛を余儀なくされた期間に、チームメイトとSNSなどを活用してコミュニケーションを取り、トレーニングの情報交換や次の合宿での取り組みについて話をしていたことが、合宿での活動にプラスになったと語る。

 37歳の今井選手は、体力面では「持久力が落ちていたし、合宿の後半になると集中力を欠くところもあった。そういうところは改善点。1年で自分とチームをレベルアップさせて金メダルにより近づきたい」と、先を見据える。

 一方、池選手は遠方在住者の一人として7月合宿に参加できなかったものの、ほかのメンバーの練習の様子を映像で確認。所属チームや代表強化指定の選手などと練習をする機会を設けるなど調整に余念はない。また、海外選手のトレーニング動画を見て、「『あいつには負けない』と勝手に一緒にやっている」と笑う。

 池選手も今井選手も、車椅子がウィルスを巻き込む可能性は高いとして、手洗いやうがいはもちろん、極力外出を避け、一般より多くソーシャルディスタンスを取り、日ごろから消毒液を携帯して使用し、感染防止に神経を使っているという。それも、1年後の東京パラリンピックで成果を見せるために他ならない。

大きな変更はない

 世界の感染収束の見通しはなかなか見えないが、オアーヘッドコーチは、1年後の本大会への強化計画について「大きな変更はない」と話す。

 「できる限り早く普通の状態に戻れることを願っているし、できる限り早く日本に来て、1年後の本番へできる限り通常の状態に戻って練習することが目標になる」と、チームへの合流を心待ちにしている。

 計画では年明けからは英国遠征、3月に日本でのパラ競技大会、6月のカナダカップなどを組み込みながら、来年8月25日~29日の本大会(東京・国立代々木競技場)に備える予定だ。

仮に、感染状況によって国際試合を戦えない状況が続いたとしても、日本代表指揮官は「各国のラインを想定した練習も含め、チーム内で比較的レベルの高い準備ができると思っている。(国際試合がないことは)確かにベストではないが、最悪ではない」と動じる様子はない。

 それは、2017年から日本代表の指揮を執るオアーヘッドコーチが、ここまで積み上げてきたチーム基盤への自信でもある。2018年の世界選手権での優勝に加え、世界ランクでも日本は2019年に過去最高の2位まで浮上した(今年7月の最新版では3位)。

チーム力と若手の発掘

 もちろん、ライバル国も来年の大会へ向けて強化に工夫を凝らしていることも忘れていない。

 2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロとパラリンピック連覇中のオーストラリア、2008年大会以来4度目のパラリンピック制覇を狙っているアメリカ。かつてオアーヘッドコーチが率いていたカナダは、ロンドン大会で2位、リオ大会では日本に敗れて銅メダルを逃した。2008年までは3回のパラリンピックで4位に入ったイギリスもいる。

 池主将はメダルの色を分けるのは「チーム力」と断言。「チーム力を高めていきたい。この1年で仲間を押し上げていく力もある」と指摘する。

一方、オアー指揮官が日本の成功の鍵と考えているのが、若手の発掘と台頭だ。

「2016年のパラリンピックで、アメリカが大会9カ月前に新人を加えて、それが大会で奏功していた。我々もそういうことはやっていかなければならない。2021年大会での金メダル獲得だけでなく、今後ウィルチェアラグビーが日本で成功するために必要なことだ。」

 今井選手は、「コロナ禍に打ち勝って、世界一のお祭りであるオリンピック・パラリンピックを日本で開催する。そこで僕らは金メダルを獲りたい。この1年を大事にして、金メダルに値するチームになり人間としても成長できるように頑張りたい」と気を引き締める。

 池主将も、「大会が開催されるのであれば表彰台の一番高いところに立ちたい。不安の中で行われる大会になるかと思うが、その不安を払拭するぐらいの素晴らしいものを自分たちが見せたい。目標の金メダルは変わらない。それ以上に自分たちが伝えられるもの、得られるものがあると思う。そういうものを掴むために、来年の8月まで走っていきたい」と力強く語った。