新型コロナウィルス感染の世界的な流行でラグビーだけでなくスポーツ活動が大幅に制限されてきた中で、キャプテンを務めるなど元日本代表で活躍したレジェンドと呼ぶべき3人が、ミャンマーの子どもたちに体を動かす機会を提供している。

 3人は菊谷崇氏(40歳)、小野澤宏時氏(42歳)、箕内拓郎氏(45歳)。NO8やFLで活躍した菊谷氏は、2011年ラグビーワールドカップで主将を務めるなど68キャップを保持。元ウィングの小野澤氏は、日本代表で歴代2位の81キャップ獲得と通算55トライをマークし、2003年から3大会連続でワールドカップに出場した。また、現在トップリーグの日野レッドドルフィンズでFWコーチも務める箕内氏は、2003年と2007年の2度のワールドカップで日本代表主将を務めるなど48試合で活躍し、2006年には世界選抜にも選出された。

この3人が共同で2年前に立ち上げたブリングアップ・ラグビーアカデミーのオンライン合同トレーニングに今回、日本と同様に新型コロナウィルス感染拡大で自粛生活が続いているミャンマーの子どもたちを招待。NPO法人ジャパンハートとの連携で実現したプログラムは5月中旬に始まり、週2回、1回60分ほどのセッションで、ジャパンハートが運営する養育施設の子どもたちが日本の子どもたちと一緒に汗を流している。

 「ミャンマーも新型コロナで自粛が続いて、子供たちの時間の使い方が難しいというので、自然な形でサポートしていければと思った」と、アカデミーの代表を務める菊谷氏は言う。

週2回の合同セッションは継続へ

 5月18~19日に実施した初の合同セッションでは、1日目にボールを使ったスキルトレーニングとフィジカルトレーニングを行い、2日目はサーキットトレーニングという構成。

初日の練習では小中学生年代と見られるミャンマーの子どもたちは、現地で手に入らないラグビーボールの代わりにサッカーボールを使って、室内でできるボールハンドリングやボールを使ったフィジカル強化のメニューに挑戦。初めてながらも順応性の高さを見せて、次々とこなした。

 2日目にはミャンマーからの参加者が約20人に倍増。女子の姿も多く見られ、日本からはブリングアップのアイスホッケークラスの子どもたちも参加して、チーム対抗戦の趣も漂う。子どもたちは運動不足の解消のために用意された「1時間でしっかり汗をかける」(菊谷氏)というハードな内容に取り組んだ。

 練習後、日本もミャンマーの子どもたちも異口同音に「めちゃめちゃ、きつかった」「疲れた」と話していたが、表情は明るい。ミャンマーから参加した男の子は、「今日初めて参加したのですごく疲れたけど、楽しかった。この練習はサッカーをやる時にも使える」と充実の表情。別の男の子はスクワッドキープに苦労したと話し、「うまくできるやり方を教えて」とコーチ陣にリクエストしていた。

 オンラインでのセッションは好評で、2週目からは女子の参加がさらに増加。当初は5月いっぱいの実施の予定だったが、6月も週2回のペースで継続開催されることが決まった。

 菊谷氏によれば、ミャンマーでは学校で日本のような体育の授業はなく、一般に男子に比べて女子がスポーツとして身体を動かす機会も少ないという。そこで、女子のモチベーションアップを狙って、菊谷氏らは他競技の女性アスリートのゲスト参加も計画。さらに、現地にラグビーボールを送る予定も立てている。

「楽しんでくれると、こちらもやりがいがあるし、つながりがより深まることはうれしい。ミャンマーの子どもたちがこういうトレーニングの情報を、さらに小さい子たちにも展開してくれたら形になる」と、菊谷氏は広がりを期待。今後も現地と連絡を取りながら、支援の形を考えていきたいとしている。

アジア貢献は自然な流れ

新型コロナウィルスの感染流行で生まれたオンラインという場でのレッスンだが、菊谷氏は「オンラインだからできる」と前向きに受け止める。

小野澤氏は「固定されたからこそ広がりたいという欲求が生んだ新しい関係性。制限があると人間は突破するということが分かった」と語り、二人とも新たな展開を歓迎している。

アカデミーを立ち上げた当初から、アジアでの普及活動は念頭にあったという。そのルーツは、3人が日本代表として世界各地でプレーしてきた積み重ねにある。代表で12年間プレーを続けた小野澤氏をはじめ、菊谷氏はサラセンズ、箕内氏はオックスフォード大学でプレーした経験もある。グローバルな経験と視点を得て、アジアへの貢献意識は3人の中に自然と芽生え、根付いていったという。

「代表でいろいろなところでプレーしているというのが大きいんでしょうね」と菊谷氏は言う。各地で温かく自然に迎えらえるラグビー界ならではの土壌によって、自分たちの中に他を受け入れる、手を差し伸べる素地ができたというのだ。

 「日本代表はアジアの代表でもあるし、アジアネーションズカップなど、アジアでよく試合をしていた。日本で子どもたちへの普及をするのなら、そういうところにもつなげていけたらと思っていた」と、菊谷氏は思いを明かす。

今回の活動以前にも菊谷氏ら3人はそれぞれのコネクションを活かして、現役引退後にベトナムやタイ、ネパールなどのアジアの国々を訪れて、チームづくりや競技指導などラグビーの普及活動に積極的に関わってきた。菊谷氏自身は現在、日本ラグビーフットボール協会で海外普及を担当する委員会のメンバーでもあるが、ブリングアップでは気軽に身近なところから始める支援の方法を模索している。強みは現役次弾を彷彿とさせる3人の機動力の高さだ。

小野澤氏は、「手探りでもいい。ボール1つで何かが変わるし、いなかった人がそこに行くことも環境の変化になる」と言い、環境に変化を加えることで、新たな可能性を生み出したいと語り、菊谷氏も「自然にサポートできるといいと思っていた。僕らは常にドアを開けている状態」と、今後の展開にも柔軟に対応したい姿勢を示している。

子どもたちをグローバルに育てたいという思いも強く、今回のミャンマーの子どもたちとの繋がりも、日本の子どもたちにとってプラスになると菊谷氏は見ている。

「ミャンマーの子どもたちが日本のことを好きになってくれたり、ラグビーが発展していけばいいし、アカデミーの子どもたちには、グローバルな世界を提供できる一つの機会。日本だけでなく、外に目を向けるチャンスにもなると思う」

 子どもたちの成長を考えた、新たな支援と繋がりは始まったばかり。今後の展開が楽しみだ。

 Photos: Japan Heart and BURA