プロジェクト名はラグビーエイド。ラグビーを通じたつながりから「医療従事者へエールとサポートを!!」と、新型コロナウィルス感染症と闘う医療の現場で不足している医療物資を届けようという支援活動だ。

 この活動を始めた、全国のラグビー好きな小学生やラグビースクールを対象としたコミュニティサイトを運営するラグビーキッズ代表の深尾敦キャプテンは、「ドクターの皆さんには試合でお世話になっている。今、恩返しをしなければ」と話す。

始まりは一本の“パス”からだった。

 ラグビーキッズでは、新型コロナウィルス感染拡大で外出自粛となり、ラグビーも外で自由に体を動かせない状況が続いて元気がなくなっていく子どもたちを勇気づけようと、『勇気のパス』というメッセージのリレーをSNSで始めていた。

そのパスが、ラグビーキッズと縁のあるラグビージャーナリストの村上晃一氏から元日本代表の大野均選手(東芝ブレイブルーパス)へ送られ、トップリーグでプレーする選手や関係者らへ次々と展開されるようになった。すると、ある日、そのリレーメッセージを目にした東京慈恵会医科大学付属病院の宿澤孝太医師からラグビーキッズにメッセージが届いた。

「疲弊していく現場で、ラグビー選手が投げた『勇気のパス』に元気づけられました」

宿沢医師は、自身も慈恵医大のラグビー部で監督を務め、昨秋のラグビーワールドカップで大会のマッチ・デー・ドクターとして大会を支えた一人。父は日本がワールドカップ初勝利を挙げた1991年大会で日本代表を率いた故宿澤広朗監督だ。

メッセージが届いたことがきっかけとなり、深尾氏は宿沢医師から医療物資不足で困窮している現場の実状を耳にして、「ドクターたちを助けたい、とりあえずやってみよう」と支援を決意。まずは宿沢医師の務める慈恵医大病院へ医療物資を届けようと、クラウドファンディングを始めたという。

届ける医療物資は、ドクタースーツ、マスク、手袋、フェイスガード、靴カバーの5点セットを200セットに設定。「とにかく早く届けたい」(深尾氏)という思いから、活動期間を20日間と短めにして5月1日からスタートさせた。

 

元日本代表選手らも賛同

活動の賛同者リストには、前出の大野選手をはじめ、小野澤宏時氏や菊谷崇氏ら元日本代表選手、サンウルブズでも活躍した浅原拓真選手(日野レッドドルフィンズ)、さらに各地のラグビースクールの名前が並ぶ。

その一人で、2003年、2007年と2度のワールドカップで日本代表キャプテンを務め、現在は日野レッドドルフィンズFWコーチを務める箕内拓郎氏は、「僕自身も、こういう時に何かできることはないかと思っていた」と話す。

「医療崩壊の危機が言われている。僕らが家にいれば状況を悪くすることはないが、最前線では大変な思いをしてリスクを背負って戦っている」と、現場の医師らを思いやる。

箕内氏はまた、日本代表の元同僚たちと始めたアカデミーで子供たちにラグビーを教えていることから、「子供たちにもこういう状況を知ってもらい、困っている人を助けることの大切さを理解してくれたら」と話している。

 

広がる支援

今回の募金活動は、開始2日で目標設定の100万円を達成すると、その後も順調な伸びを見せて約1週間で290%をマーク。深尾氏のもとには医療物資の追加支援など、さまざまな支援の声が届いているという。

この展開に深尾氏は「全然、思ってもみない展開です」と、戸惑いと喜びの表情を見せる。

医療物資は募金活動終了を待たずに、すでに発送を手配。また、今回の反響の良さを受けて今月21日からは第2弾を始める予定で、届け先も他の医療機関へも広げたいとしている。

箕内氏は、ラグビー界で広がりつつある医療支援の動きについて、「昨年のワールドカップでラグビーはパワーがあると改めて感じたが、こういう時にもそのパワーを感じられるのはうれしい。ラグビー界からいいメッセージを発信できたらと思うし、そこに自分たちも関われているのはうれしいこと」と語っている。

 なお、クラウドファンディングのきっかけになった『勇気のパス』は、現在ラグビースクールの子供たちも巻き込んだ展開になっている。